世界初!3Dプリンターで指の神経再生に成功。広がる3Dプリンターの可能性
世界で初めての神経再生に成功
京都大学医学部付属病院は、細胞から人工的に組織を作る“バイオ3Dプリンター”を使い、世界で初めて指などの末梢神経を損傷した3人の患者の神経を再生することに成功した。
2023年4月24日に京都大附属病院が発表した内容によると、従来の手法に比べ神経の再生が良好で、副作用や合併症などの発生も見られていない。
研究チームは、再生医療ベンチャーが開発した3Dプリンターを活用し、勤務中に指や手首のケガを負った20〜50代の3人の患者を治療。
患者自身の腹部の皮膚細胞を、約2か月間培養。
直径2㎜の神経導管を作成し、患部への移植に成功した。
臨床試験(治験)の結果、3人とも知覚神経の回復が見られ、仕事の復帰も果たしているという。
治験では、腹部の皮膚から採取した細胞を培養し、サイフューズ(東京都港区)製のバイオ3Dプリンターで“神経導管”をプリント。
神経導管とは、神経のネットワークを構成する“軸索”を伸長させる管。
神経導管を損傷箇所に移植し、軸索を再生することに成功したのだ。
適用された3人の患者を12カ月間観察した結果、患者全員に知覚神経の回復が見られ、副作用もないことで安全性と有効性が確認できたことになる。
現在は末梢神経損傷の治療としては“自家神経移植”が主流で、主に患者自身から健常な神経を採取し、損傷箇所に移植する治療が行われている。
その治療法では神経再生が不十分で、採取した部位に痛みやしびれなどが残ってしまうことが課題だった。
京大附属病院研究チームの池口良輔准教授(京大病院リハビリテーション科)は、
「末梢神経の損傷で思うように手が使えなくなってしまい苦しんでいる患者さんや、自家神経移植で痛みが残ってしまった患者さんは多い。
今回の結果で神経導管移植が神経の損傷で苦しむ患者さんの選択肢の1つとなり、社会復帰につなげたい」と話す。
今後はサイフューズ主導で再生医療等製品としての実用化を目指し、開発を進める予定だ。

血管模型を作る技術開発にも活用
医療現場における3Dプリンターの活用事例はほかにもある。
北海道大学の森田亮助助教授や野々山貴行准教授らの研究チームは、3Dプリンターを使い本物に近い血管模型を作る技術の開発に成功した。
光を当てると固まる透明な樹脂を用いて、豚の動脈血管と比較しながら血管を再現。
樹脂の種類や固まる時間の調整を行い、血管に近い柔らかさも再現。
患者ごとに複雑な血管模型を簡単に作ることが可能で、手術前の訓練にも活用できるため、手術の精度向上や時間短縮が期待できる。
さらに、血管模型の内側が滑りにくいとカテーテルが正確に入らず治療の再現に使えないため、樹脂の内側をシリコンで覆い、血管の内側の滑りやすさの再現にも成功。
シリコンの厚さを1.6〜2マイクロメートルにしたときに、血管の滑りやすさに近づくことができたという。
これまでは撮影した画像しかなかったが、CT(コンピューター断層撮影装置)などで撮影した腎動脈や肝動脈の画像から患者の血管の3D模型を作り、カテーテルを使う手術前に血管内でカテーテルをどう動かすか確認することもできるようになった。
チーム内で動きの共有もできるため手術時間が短縮できるだけでなく、人によって異なる形や太さなどの再現も正確にでき、価格も抑えられるという。
今後は企業などと協力しながら、より本物の血管に近い再現モデルを作る手法の開発を目指す。
開発に成功すれば、各病院で簡単にシステムの作成ができるようになる。

3Dプリンターの可能性と未来
3Dプリンターは医療の現場以外にも、さまざまな業界や場面で活用されている。
建設会社の大手、大林組は国内で初めて3Dプリンターで製作した建物を完成させ、4月24日に東京都清瀬市で報道陣に公開した。
建物の構造部分は鉄筋や鉄骨が未使用で、特殊なモルタルや独自の超高強度繊維補強コンクリートを使用して作られている。
延べ床面積27平方メートルの構造部分全てを、3Dプリンターでデザイン。
粉末状の材料を運び、現地で効率的に作業することで二酸化炭素の排出量を減少させたり、従来手作業で行っていた工程を機械で行うことで工期短縮や作業量削減につながったりするメリットがある。
大林組の担当者は、「大規模な建物でデザイン性が求められるケースがあれば、どんどん活用していきたい」と話す。
最近では、大手百貨店の高島屋が2023年正月の福袋として3Dプリンターで建てる家を販売したことが話題になった。
“Sphere 3Dプリンターハウス”は、3Dプリンターを使って24時間で施工可能。
約10平方メートルで、価格は330万円。
自分で家具を選べ、グランピングや趣味を楽しめる離れ小屋に最適とされ、1棟限定で販売された。
今後も広がる3Dプリンターの可能性や未来に興味は尽きない。
