社会・文化

父56歳、母45歳。「こんなに育児が面白い」

妊娠の驚きと喜び、その後の苦労

少子化が進む現代の日本。

生き方や考え方は多様化し、結婚しない人、結婚しても子どもを産まない人、子どもを産みたくても叶わない人などさまざまな生き方や事情がある。

子どもに恵まれても、虐待をしてしまう人もいる。

昔に比べると高齢出産も増え、厚生労働省の人口動態統計を見てみると、2020年には新生児の中で母親が35歳以上の高齢出産に該当する割合が約29.2%となっている。

これは1995年の約9.5%と比較して、約3倍にも増えている。

産経新聞社で『夕刊フジ』の編集長を務める中本裕己さんは、56歳で父になった。

中本さんの妻は、45歳での初めての出産だった。

妻の妊娠発覚から出産、そして子育ての様子を綴った著書『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました ‐生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記』(ワニプラス)が話題になっている。

中本さんと妻が結婚9年目を迎えた2020年2月、中本さんのもとに妻から「今日なるべく早く帰れませんか?」と連絡が届いた。

突然の連絡に不安がよぎったという中本さんが帰宅すると、妻が1枚のモノクロのエコー写真を差し出したという。

中本夫妻は子どもについて「自然に任せて、恵まれたらいいね」と話し合っており、それまで不妊治療も妊活もしていなかった。

夫婦の願い通りに自然に赤ちゃんに恵まれたが、その直後に新型コロナウイルス感染症の影響で緊急事態宣言が発令される事態となってしまう。

感染対策をしっかりして過ごしていたにもかかわらず、妻が妊娠7カ月目のときに“おたふく風邪” にかかり、入院することになってしまう。

入院後、妻の容体は悪化し、検査の結果“心筋炎”の疑いがあることも明らかになった。

母子の安全のため別の病院に緊急搬送され、緊急帝王切開が行われることになる。

七夕に生まれた息子

帝王切開が行われたのは、2020年7月7日のこと。

七夕の日に手術が無事に成功し、1,203gの男の子が誕生した。

しかし、妻はその後もICU(集中治療室)で治療を受け、妊娠7カ月で誕生し、NICU(新生児集中治療室)で治療を受ける息子と妻の間を行き来することになった中本さん。

大切な2つの命を見守り、2人の頑張りを信じ続けることしかできず、コロナ禍のため息子に会うこともできない。

そんな中、ICUのスタッフより「母と子の初対面をしましょう」と提案され、ICUからベッドごとNICUに移動して初対面が叶う。

中本さんはそのときの様子を、

「白くて大きい手のひらと、真っ赤で小さい手のひらが、ぴたっと重なった。

それまで眠っている様子だった息子は、切れ長の両目のまぶたを開き黒目がちになり、眼球がキョロキョロと初めて見る母親を追いかけた。

妻は瞬時に、ふんわりとした母の顔になった。

自然界に生きる動物の母と子そのものだ。

ただ笑っているだけでなく、慈愛に満ち、そして息子を心配そうに見守る表情も混ざっている。

私は胸がいっぱいで、なにも言えなかった。」

(『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました ‐生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記』より引用)と綴っている。

妻はその後順調に回復し、緊急帝王切開の手術後16日目で無事に退院することができた。

息子もNICUからGCU(新生児回復期治療室)に移り、2020年9月27日に退院。

親子3人での新生活が、ようやくスタートを迎えることになった。

育児は楽しく面白い

初めての子育てに奮闘する中本さん夫婦。

子育ては体力を使うので年齢的な不安も大きく、金銭的にも心配が募った。

また、社会制度の課題などさまざまな問題に直面しながらも子育てをしながら中本さんが感じたことが、本書には記されている。

それは、「こんなに育児が面白いとは。早く言ってよ!という感じだよね」ということ。

妻とよく話し、笑い合っているという。

育児書には困ったときの対処法がたくさん書かれ、世間一般でも「子育ては大変」だというイメージが広がっている。

もちろん大変なこともたくさんあるが、それ以上に楽しい発見が毎日たくさんあると感じている中本夫妻。

大変な思いをして生まれてきた我が子だからこそ、そんな風に感じることができるのかもしれない。

年齢を重ねてきたから、感じられる部分もあるだろう。

しかし、子どもが生まれた尊さやかけがえのない存在であること、日々の暮らしがよい意味で一変することなどを、もっと知ってほしいと願う。

子育ての楽しさややりがいが世間に認知されなければ少子化対策は理屈ばかりが先行し、前に進まないのではないかと疑問を投げかける。

本書には「どこの家庭にもあり得ることで、けっして我が家が特別だとは思っていない」と綴られているが、

だからこそ「産まれてくることは“あたりまえの奇跡”である」と伝えたいという思いが強い。

突然の妊娠の喜びから、母子ともに命の危険を乗り越えて手に入れた親子3人水入らずの生活の様子。

妻子の命を救ってくれた医療機関への感謝や、妻の「生きたい」という思い、そして愛しい息子を通して初めて体験する子育ての大変さとそれを上回る楽しさ。

本書には中本さんの温かい眼差しで、これまでの日々や気持ちが綴られている。

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