安部元総理銃撃事件のその後 悲しみの声と広がる波紋
安部氏とは「一心同体」だったと語る菅前総理
安倍晋三元総理が亡くなってから、明日で1週間になる。連日、様々な報道がなされ、日本中を襲った悲しみと衝撃はおさまるどころか日増しに波紋が広がっているように感じられる。
7年8カ月に渡り、安倍政権で官房長官を務めた菅義偉前総理は、13日に放送されたBSフジの「BSフジLIVE プライムニュースに生出演し、胸中を語った。
番組中では、生前の安部氏が「(菅氏と)一心同体」と話しているVTRが流れた。
このVTRを受けて菅氏は「今の安部さんの挨拶を聴いて、涙があふれる思い。
あれだけ元気でリーダーシップを発揮した人が、一瞬で消えてしまうのは、現実とは思えない」などと語った。
官房長官を務めていた時、安部氏とは「まさに一心同体」と話し。7年8カ月の任期中は毎顔を合わせていたという。
「安部元総理はいろいろなことに配慮してくれて、毎日1回は何もなくてもお茶を飲むなどして、あえて政治以外の話もしていた」と、声を絞り出すように話す場面もあった。

悲しみに暮れる菅氏
安部元総理が奈良市で参院選の応援演説中に銃撃された8日は、それほど時間が経たないうちに一報を聞いたという菅氏。
遊説のため沖縄へ向かおうと羽田空港に向かう車中で安部氏銃撃の知らせを聞き、さらに自民党が選挙運動を中止するとの情報が入り、「それだったら会いに行きたい」と奈良に向かったという。
奈良に行こうと思ったのは、じっとしていられない気持ちからだったのか問われた菅氏は、「(撃たれたのが胸だと聞いたので、万が一のことを考えた」「同じ空気を吸いたいという感じだった」とコメント。
「(安部氏は)さみしがり屋でもあったので、そばにいてやりたいという気持ち」から、とにかく行ってみようと現地に向かったことを明らかにした。
時折沈黙を挟みながら語る菅氏の様子からは、深い悲しみが伝わってきた。
安部氏が搬送された奈良県立医大病院に到着したのは既に18時を回っており、安部氏の死亡が確認されたのは17時3分。
病院に到着後、昭惠夫人に挨拶してから時間をおいて病室に入ったという菅氏。
「いろんな情報を自分では信じたくなく、確かめたいという思いで行った」と、無念の思いを口にした。
病室で安部氏と対面した際は、「感謝の気持ちと、お世話になった思いを伝えた」という。

盟友麻生副総裁の弔辞
12日に行われた安部氏の葬儀で弔辞を述べたのは、自民党の麻生太郎副総裁。
「各国が進むべき羅針盤を必要とする今、あなたを失ってしまったことは、日本の大きな損失」だと話し、盟友の死を悼んだ。
安部氏の功績については、「積極的な外交は持ち前のセンスで、守るべき一線は譲らないという類まれなる胆力が、各国の首脳から一目を置かれていた」「いかなる局面でも、日本という国を思い、国益を最優先する信念が、先生と私をつなぐ絆だった」と評価。
「今まで成し遂げたことを、胸を張って報告してほしい」「政治談議に花を咲かせられるのではないか」と、安部氏の父である晋太郎氏や祖父である岸信介氏について話す場面もあった。
安部氏に向けては、「私もそのうちそちらに行く。これまで以上に冗談を言いながら、楽しく語り合えることを楽しみにしている」と呼びかけ、「私の弔辞を安部先生に話していただくつもりだった」と、無念の思いを口にした。
昭惠夫人は謝辞で、「主人は麻生先生に、本当にあこがれていたので、喜んでいると思う」と感謝の言葉を口にした。

戦後4人目の「大勲位菊花賞頸飾」授与
11日に行われた持ち回りの閣議において、日本政府は安部元総理のこれまでの功績を称え、最高位の勲章である「大勲位菊花賞頸飾(だいくんいきっかしょうけいしょく)」と「大勲位菊花賞大綬章(だいくんいきっかしょうだいじゅしょう)」を授与することを決めた。
「大勲位菊花賞頸飾」は、日本の勲章の中で唯一首飾りの形状をなる勲章の最高位にあたるもの。
天皇陛下が即位に伴う儀式で身につけるもので、戦後では吉田元総理大臣、佐藤栄作元総理大臣、中曽根康弘元総理大臣に続いて、4人目の授与となる。
授与を決めた理由について、松野官房長官は「内閣総理大臣として、日米関係を基軸とした外交や経済安全保障政策に尽力するなど、多年にわたる経歴や功績に鑑みたもの」と説明している。

警備の問題点
安部氏の銃撃事件に関しては、殺人容疑で現行犯逮捕された山上徹也容疑者の動機と言われている旧統一教会に関することや、当日の警備に関することが連日報道されている。
安部氏の演説中に後方で警備を担当していた警察官は、奈良県警などによる調査に対し、「道路を走る自転車等に気を取られていて、容疑者に気付くことができなかった」と説明していることが捜査関係者への取材で明らかになった。
1発目の銃声が聞こえて初めて山上容疑者に気付いたという同警察官。
警察庁は、「検証・見直しチーム」を発足し、当日の警備の問題点や詳しい経緯を調べている。
調査の結果、対策案などを8月中にまとめるとしている。
街頭演説は、近鉄大和西大寺駅前で、四方をガードレールに囲まれた場所で行われていた。
ガードレールの内側には、警視庁から派遣されたSP(セキュリティーポリス)を含む4人の警察官がいた中で、後方の警戒を担当する警察官は1人だった。
後方担当の警察官は、山上容疑者が近付いたときに道路の自転車などを注意していて、銃声が聞こえるまで山上容疑者の存在に気付くことができなかった。
その他の警備には、奈良県警の数十人の警察官がいたが、たくさんの聴衆がいる前方ばかりを警戒し、後方に目を向ける警察官はいなかった。
警備に関する様々な問題点が指摘され、安部元総理を守れなかったことは悔やまれるが、過去は変えられない。
今後に向けて。二度とこのような事件が起きないようしっかりと対策案をまとめてほしいと願うばかりである。

