“漫画界のカンヌ”アングレーム国際漫画祭で日本の漫画が多数受賞の快挙!
『進撃の巨人』作者諫山創さんが特別賞を受賞
1月28日、フランス南西部アングレームで開かれた“アングレーム国際漫画祭”授賞式で、日本の大ヒット漫画『進撃の巨人』の作者として知られる諫山創さんが、特別賞を受賞した。
アングレーム国際漫画祭は、欧州最大規模の漫画の祭典で、2023年は1月25日から29日まで開催された。
今年は記念すべき第50回目を迎え、諫山さんが受賞した特別賞は第50回を記念した“第50回フォーブ特別賞”。
現地で受賞式に出席した諫山さんは、フランスメディアの取材に応じ、受け取ったトロフィーを自身の出身地である大分県日田市にある“進撃の巨人 in HITA ミュージアム”に展示すると語った。
諫山さんは『進撃の巨人』が連載デビュー作で、2009年に連載がスタート。
人を食べる謎の巨人と、巨人から防護するための高い壁に囲まれた街に住む主人公エレン達との闘いや民族間の争い、そして親子を巡る葛藤などを壮絶に描いたダークな作風が大人気となり、アニメ化や実写映画化もされる大ヒットとなった。
連載は2021年に完結しているが、その人気は日本国内だけにとどまらず、世界中に広がっている。
電子書籍を含む単行本の推計発行部数は1億部を超え、約180の国と地域に配信されている。
今年、アングレームでは『進撃の巨人』の展示会が開催され、諫山さんは現地を訪れ、ファンや関係者との交流を深めていた。
『進撃の巨人』が世界でも反響を呼んだのは、若者達が自由を求めて闘う姿が文化や社会の枠を超えて共感されたからだろう。
中でもアラブ諸国の若者達にとっては、2011年の中東民主化運動“アラブの春”が行き詰まったことやイスラム教の保守的な慣習、イスラエルによるパレスチナ空爆など厳しい現実に直面したことから、『進撃の巨人』を自分達の物語だと捉えているようだ。
物語の終盤に向かい、正義の在り方の難しさが読者に問われていたが、宗教や民族、階級などによるさまざまな共同体が共存し、紛争が勃発すれば対立する相手を敵やテロリストとして断罪し、争いが長期化して報復の連鎖が繰り広げられるアラブ社会に暮らす人々の心に、深く届いたことなどが評価されたのではないだろうか。

『進撃の巨人』が世界で共感された理由
2021年に、講談社の『進撃の巨人』の担当編集者である川窪慎太郎さんが、Twitterに全世界のファンに向けての感謝の言葉を英文でツイートしたことがある。
そのツイートには全世界のファンから3万を超える“いいね”が付き、アジアや欧米、中東などさまざまな国や地域から「偉大な漫画をありがとう」「(『進撃の巨人』は)人生の一部だった」など、多くのコメントが寄せられたのだ。
増税法案をきっかけとした反政府デモが続いていた南米コロンビアのファンからは、「勇気をもらった」とのコメントを書き込んでいた。
川窪さんは共同通信の取材に応じ、「諫山さんが幼い頃や思春期に日本で感じていた個人的な感情などをベースとして、フィクションという形にした」とコメント。
描き始めた当初は、世界はもとより日本社会すらも意識していなかったと語り、「世界各国からのファンの反応は予想外だった」と話していた。
「年齢や性別、国籍、文化などに縛られず、『言葉にできない感情』を共有できることが物語の素晴らしさ」だとし、
「人間が人間らしく生きていくためには、言葉にできないものが必要だと思う。
作品が言葉にできないものを思い返す手段として扱われていくと嬉しい」とも語っている。
アングレーム国際漫画祭の特別賞受賞は、諫山さんにとっても非常に嬉しい出来事だったことだろう。

数多くの日本人漫画家や作品が受賞
フランスのバンドシネやアメリカのアメコミ、日本の漫画などを広く取り上げ、世界でも注目度の高いアングレーム国際漫画祭は、“漫画界のカンヌ”とも呼ばれている。
今年は諫山さんのほかにも、数多くの日本人漫画家や作品が受賞を果たした。
フォーブ名誉賞に『男組』や『クライング・フリーマン』『サンクチュアリ』などの緻密で華麗な作画で知られる池上遼一さんと、『富江』シリーズや『うずまき』『ギョ』などのホラー漫画を数多く手がけている伊藤潤二さんの2名が受賞。
作品部門では、連載が続いている作品を対象としたシリーズ賞に押見修造さんの『血の轍』、歴史に残すべき漫画作品を顕彰する遺産賞に坂口尚さんの『石の花』が選ばれた。
遺産賞は、最近の作品よりも評価が確立している傑作に贈られる賞で、日本の作品では水木しげるさんの『総員玉砕せよ!』と上村一夫さんの『離婚俱楽部』が受賞したことがある。
このほか、作品部門の公式セレクション46作品の中には石黒正数さんの『天国大魔境』、うめざわしゅんさんの『ダーウィン事変』、安田佳澄さんの『フールナイト』、武田一義さんの『ペリリュー 楽園のゲルニカ』が選ばれている。
世界の中でも日本の漫画が、漫画家と作品どちらも高く注目され、評価されていることがうかがえ、日本の漫画ファンにとっては非常に嬉しいニュースとなっている。
