もはや無意識レベル!?「低音を聞くと人は踊りたくなる」という研究結果
クラブや音楽イベントに行くと、あの内臓にまで響く低音に心まで揺さぶられる。
ついつい低音に体をゆだねて「踊りだしたくなる」ことはないだろうか?
この低音とリズム感覚について、真面目に研究し続けている人たちがいる。
この度、カナダのマックマスター大学の研究者によって、ダンスフロアを熱くするのは「低音がすべて」だと判明した。
それは単純に低音が体に響くからではなく、「意識を超えたもの」であるというのだ。
超低音波スピーカーを使うと盛り上がる!?
研究によると、エレクトロニックミュージック・デュオ「Orphyx」のイベントに超低音波サウンドを導入してみた。
その結果、人々がより多く体を動かしてノっていたことがわかった。
実は低音は周波数が低いため、耳には聞こえづらい。
しかし事実、人をノらせて踊らせる効果があるのだ。
同大学の神経学者であるダニエル・キャメロン氏によれば、「音が聞こえるから踊りたくなるという意識的なものではなく、意識を超えたもの」だそうだ。
その研究では、イベントに超低音の周波数を流すスピーカーを設置。
そして43人がモーションキャプチャー用のヘッドバンドを着用した。
モーションキャプチャとは、人の動きをデジタル的に記録する技術だ。
よくCG映画で俳優らが体中に機材をつけているアレで、キャラクターをより人間らしい動きにするため使われている。
そしてスピーカーを2.5分毎にオン・オフと切替え、低周波が流れている時と流れていないときの違いを比べた。
結果、低周波が流れている時は、参加者が12%多く動いていた。
低音によって人がより激しくノって踊っていたのだ。

無意識レベルで人を踊りたくさせる低周波音
他にもマンチェスター大学による2014年の研究では、「人々は高周波よりも、低周波の音の変化に気づきやすい」と判明した。
研究では35人の参加者に、わざとビートをずらした高周波と低周波のピアノ演奏を聞かせた。
結果、低周波音の時の方が、わずかなリズムの違いに気づく人が多かった。
曲のメロディよりも、ベースがずれた方が「おかしい」と気づきやすいのだ。
このように、ベースラインのような低音は人に「神経同調」を与えてリズムを追いかけさせる効果があり、生理学的な繋がりがある。
しかし、キャメロン氏は、「低音で体が動くのは、音楽の変化に同調したからではなく、無意識レベルの反応だ」と指摘。
その根拠としてイベント参加者51人に、アンケートを実施した。
参加者には「体で音楽を感じるか」
「体で感じたことがダンスなどの動きに影響を与えるか」と質問。
その結果、多くの人が「音楽で得た感覚に身体的動作が影響される」と回答。
しかし、この回答結果は、低周波の実験を行っていないイベントでも同じだった。
また、イベントに低周波スピーカーが用いられたかどうか判断させる実験では、参加者はその違いを区別できなかった。
参加者は曲の盛り上がりに反応したのではなく、低音の影響で体の動きが増えたのだ。
これらのことから、「低周波は人の感覚で感じ取れないが、身体の動きには影響を与えている」と結論付けた。
スコットランドのダンディー大学で認知神経科学を専門とするアン・カイテル氏は、今回の研究について、
「低周波数の音が人の動きに影響し、その影響は個人的なものではなく、全体で一貫しているように見える」と研究の有用性を評価した。
また、「実際イベント中に個人がどう動くかを観察する」という、研究室では行えない「野性の研究」は珍しく、重要だと語った。
カイテル氏は、この先「音が身体に無意識に影響を与える」という点を掘り下げて研究されることを期待している。

なぜ人間の脳は低音を愛するのだろう?
これらの研究により、低音が無意識レベルで踊りに搔き立てることは分かった。
なぜこれほどに影響を受けるのだろう?
ラトガーズ大学の認知科学者カリン・ストロムズウォルド氏によれば、胎児期が影響しているという。
人間に『リズム』が根付く理由の1つは「胎児期に母親の心臓の鼓動や母親の声が聞こえているため、低音を聴き取る脳の領域が早い段階で発達する」とのこと。
心臓の音は低音として胎児に聞こえている。
そして、母親の体を通して聞こえる音もまた、高周波の音がカットされて胎児に聞こえているそうだ。
多くの科学者は、胎内で聞く低音こそが、赤ん坊の初期言語の獲得に深く繋がっていると考えている。
そして生まれた後も、胎内で聞こえていたリズム感に触れて過ごす。
文化や環境が違っても、音楽にリズムがつけられるのは、人間の脳には先天的にリズムとの生理学的な繋がりがあると考えられている。
また、音楽のベースラインを聞いて、気分が上がるような経験はないだろうか。
ベース音は、アドレナリンを分泌させるなどのユニークな影響をもたらす。
これは音楽を聞いた時、「神経同調」によってリズムを追いかける効果があるためだ。
ベースは32Hz~512Hzの周波数帯で演奏されるが、低周波はビートの中で直接的に響く。
ビートは、身体に骨が必要なように、曲や歌の骨として効果を発揮するのだ。

ところで低周波音って何?
低周波は音の中でも低い音を指す。
エンジン音や、滝が滝つぼに落ちる音、波が防波堤で砕ける音もそうだ。
一方、人の耳は周波数が低くなるほど感度が鈍る。
バス内や電車内など、日常のあらゆる場所で低周波音は発生しているが、この程度の周波数なら影響は少ない。
大きな低周波音の影響として、ボイラー音や空調音で不快感や睡眠妨害を被るケースもある。
今回のように、リズムに合わせて人を無意識に高揚させる作用もあるが、不快感を与える作用もある。
研究が明らかになるにつれ、この低周波音がもたらす良い影響がますます用いられることを願う。
