「賞状」を「症状」、「最近」を「細菌」 社員を誹謗中傷する書面を渡すパワハラで自殺に追い込んだとして提訴
「症状」は新年会の余興
住宅会社「ハシモトホーム」(青森県八戸市)の青森支店(青森市)に勤務しており、2018年に自殺した当時40代の男性社員。
自殺の原因は、上司からのパワハラや長時間労働が原因だとして男性の遺族が20日、会社と橋本吉徳社長を相手に、約8000万円の損害賠償を求めて青森地裁に提訴した。
遺族によると、「賞状」を真似た「症状」と書かれた、男性を侮辱する内容の書面が渡されていたという。
原告側によると、自殺した男性は同社に2011年に入社後、注文住宅の営業を担当していた。
2018年1月に関係会社も参加して行われた新年会の席上で、課長が作成した「症状」と書かれた書面を渡されていた。
営業成績を称えた症状形式の書面だが、「賞状」ではなく「症状」と書かれ、誹謗中傷するような内容が書かれており、余興として渡されていた。
渡された書面の全文は以下のとおりである
「症状 第三位 ●●殿
貴方は、今まで大した成績を残さず、あーあって感じでしたが、ここ細菌は、前職の事務職で大成功した職歴を生かし、現在でも変わらず事務的営業を貫き悪気は無いがお客様にも機械的な対応にも関わらず、見事おったまげーの三位です。陰で努力し、あまり頑張っていない様に見えて やはりあまり頑張っていない様ですが、機械的営業スタイルを今年も貫き、●●みたいな一発屋にならない様に日々努力して下さい。
平成三十年一月二十三日 ハシモトホーム ●●の会長●●」(原文のまま。一部匿名化)
文章は「賞状」を「症状」と書くだけではなく「最近」を「細菌」とも書き換えている。
そして、「あーあって感じ」「現在でも変わらず事務的営業を貫き」「見事おったまげーの三位です。」「○○みたいな一発屋」の部分が拡大されたりフォントを変えたりして強調されていた。
第三位の営業成績を称えるどころか、バカにしたような表現のこの書面は課長が企画し、文面も考えて作成したものだという。

自殺の原因はうつ病の発症
同じ頃、「おまえバカか」といった内容のショートメールが、上司である男性課長から複数回送られたこともあった。
また、自殺前の半年間は1か月平均で60時間以上の時間外労働を強いられ、直前の1か月にいたっては約76時間もの時間外労働をしていたこともわかっている。
その後、男性は重度のうつ病を発症し、同年2月、自宅に駐車していた自家用車の中で自殺した。
2020年12月、青森労働基準監督署は、うつ病の発症は上司のパワハラによるもので自殺の原因にもなったとして労災認定している。
男性の妻は、「愛する人を失い、立ち直れないほどの悲しみは今も続いている」「長年パワハラを続けていたことがとても残念で、腹立たしく思っている」とのコメントを発表。
ハシモトホームの橋本社長は書面を渡したことは認めているが、「毎年の懇親会で渡していた表彰の一環だった」と説明している。
「表現は行き過ぎていたかもしれないが、男性だけではなく他の社員にも渡していたので、自殺した男性のうつ病の原因になったのかどうか疑問」とも話している。

今後の裁判の行方に注目
20日、遺族側の代理人弁護士が青森市内で会見を開き、経緯を説明した。
ハシモトホーム側とは謝罪などを求めて交渉を続けてきたが、法的責任はないとの返答で交渉が決裂したことで提訴に至ったという。
今年4月には「パワハラ防止法」が改正され、中小企業に対してもパワハラ防止の措置が義務化されたが、「決して個人の問題だと放置はせずに、二度とこのようなことが起こらないことを願う」と話した。
訴訟について橋本社長は、「訴状を確認しておらず、現段階ではコメントできない」とコメントしている。ハシモトホームのHPには橋本社長の名前で、「弊社に関する一連の報道について」と題した文章を掲載。
「弊社といたしましては本件を重く受けとめ、最大限誠意ある対応を取る所存でございます。」「現在、原因の調査並びに再発防止策の取りまとめを進めておりますので、取りまとめ次第、速やかに公表させていただきますので、今しばらくお時間を賜れますと幸いです」(一部抜粋)としている。
パワハラが社会問題になって久しく、各企業でもパワハラ防止策が責務となっている中で起こった今回の裁判の行方には、大きな注目が集まっている。

