中国「ウィズコロナ」に転換したら何が起こるのか?
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今だに続く厳しいゼロコロナ政策
現在、国際社会にとってロシアによるウクライナ侵攻が最も深刻な事件なので、メディアでは新型コロナウイルス感染症の影が薄くなってきたが、中国では依然厳しいゼロコロナ政策が採られ45の地域でロックダウンが続けられている。
特に3月28日から予告もなしに突如ロックダウンが始まった上海では、厳しい外出制限や隔離を伴う対策にもかかわらず、連日2万人以上の新規感染者が確認され、住民生活の正常化は見通せない。
市衛生当局は18日、新型コロナに感染した高齢者3人が17日に死亡したと発表。
上海で感染による死亡が報告されたのはロックダウン開始後初めてで、中国本土では約1か月ぶりとなる。
17日に確認された新規の市中感染者はロックダウンの開始当初よりも大幅に増え、約2万2250人と本土全体の9割以上を占めている。
つまり早い話が、いくらゼロコロナ政策を続けていても、オミクロン株の感染拡大は防げていないのが実情である。

ゼロコロナ政策とは?
ゼロコロナ政策とは中国語では「動態清零」と呼ばれ、感染者が見つかるとその感染者が行動した地域を丸ごと封鎖し、徹底的なPCR検査によって感染がいなくなるまで物流や人流を停止させる方法である。
中国は2020年1月に武漢でコロナウイルスが発見されてから、ゼロコロナ政策を感染拡大防止対策の基本としてきた。
2月の冬季オリンピックの際もこの政策で直前に、北京市内での感染拡大を防ぎ、五輪成功に導いたのである。
だが感染力の極めて強いオミクロン株の感染拡大は中国内で止まらず、ゼロコロナ政策で防ぐのは難しいのではないかという議論が党内専門家の間でずっと続いている。
しかも、政策による経済、生活に対する悪影響は深刻で、住民の不満も限界に近づきつつある。

ゼロコロナ政策での経済損失
中国の2022年の経済成長目標は5.5%と国際社会の予想よりもずっと低い。
実際に18日に発表された今年1月から3月までの国内総生産の成長率は、個人消費の落ち込みや工場の操業停止などにより、前の年の同じ時期と比べて4.8%のプラスにとどまっている。
その原因の1つが、ゼロコロナ政策の長期化だったと見られている。
他国に比べて新型コロナの感染者数が低いのにもかかわらずゼロコロナ政策の方針に従って大規模なロックダウンを実施し、経済が戻りかけては、またブレーキをかけてしまう。その繰り返しが消費を冷え込ませてしまうのである。
住民からの怒り
上海では当初予定していたよりもロックダウンが長引き、市民が憤っている。
外出禁止令により、買い物にも行けず、野菜などが配給されたが、食料が底を付くのは時間の問題であり、実際に物資の奪い合いも起き始めている。
自宅に隔離されている住民たちが、「ご飯食べたい」など食料を求めて外に訴える動画がソーシャルメディアに投稿されるなど、人々は当局からのサポートもなくただ長引くロックダウンにうんざりしている。

中国はなぜゼロコロナ政策に固執するのか?
ではなぜ、中国はこの効かないとされる感染対策に固執し続けるのだろうか?
ゼロコロナ政策は2020年に武漢でのアウトブレイク以来、中国だけでなく、台湾、香港でも実施されてきた。
この中でも実質的にゼロコロナをほぼ成功させ、感染状況を低く保ってきたのは台湾だけである。
香港は2021年末からオミクロン株の感染が拡大し、これまでに死者を6000人近く出している。
香港当局は、ゼロコロナ政策の失敗を認める形で政策を一転した。4月1日以降、禁止していた9つの国からの航空機乗り入れを再開し、香港到着後の隔離期間を14日間から7日間に短縮した。
また外食産業、娯楽産業に対する規制も4月下旬以降、徐々に緩和していくと発表している。
一方、中国では感染症対応処置工作指導チームの専門家組長、梁万年は中国中央電視台の番組の中で、中国は多くの国家と違って現行の政策を転換できないとし、その理由としてワクチン接種率の低さを指摘した。
特にブースター接種率が低い為、老人や虚弱な体質の人々が感染しやすい状況にあると説明していた。

香港当局の分析によると
しかし、専門家によると実は中国製ワクチンの効き目の問題ではないか、という説もある。
香港当局がこの2カ月の新型コロナ肺炎による死者5100人について調べたところ、1300人がワクチン接種済で、そのうちシノバックワクチンを選択したのは87%であった。
この結果から、シノバックワクチンがファイザーなどのワクチンよりも予防効果が断然に劣っていたのではないか、と懸念されている。
中国製ワクチンに予防効果がなかった
もし、中国製ワクチンに期待されていたほど予防効果がないならば、中国がゼロコロナ政策から欧米のような「ウィズコロナ」政策に転換したとき、欧米以上の予想を超える重症者、死者が増える可能性がある。
農村部の医療保険体制の不十分さや人口に対する医療資源の少なさを考えれば、いったん感染が拡大し重症化率が高まると、2020年1月に武漢で新型コロナが発生したときのような混乱に中国全土が再び陥ることは十分考えられる。
しかも中国が発展途上国にばらまいていたワクチンが、実はほとんど役に立たないことも露呈してしまい、ワクチン外交の失敗が決定づけられる可能性もあるのだ。
このようなリスクを防ぐために当局は、自国民と経済を犠牲にしゼロコロナ政策に固執し続ける必要があるのだ。
中国内でのロックダウンは当分終わらないであろう。
