八雲の死亡事故から10日。トラック運転手が事前に体調不良を訴えていたことが明らかに
現場は事故が多発している箇所
北海道八雲町の野田生駅の付近で発生した、高速バスとトラックが正面衝突した事故。
バスとトラックの運転手やバスの乗客ら5人が死亡、12人が重軽傷を負った大事故から10日が経ち、事故当時の様子が明らかになってきた。
事故が発生したのは、2023年6月18日の正午頃。
札幌から函館に向かって走行していた都市間高速バスと、反対方面から走行して来たトラックが正面衝突したもので、トラックが対向車線をはみ出したために起こったと見られている。
トラックの荷台には家畜の豚が乗っており、事故の映像には7〜8匹の豚が道路に放り出される様子が残されている。
八雲町の国道5号線の事故現場は、緩やかなカーブだが見通しはよい場所。
しかし、この国道沿いでは今までにも車同士の正面衝突事故が何度も発生している。
2004年8月には今回と同じ八雲町野田生にて、乗用車が対向車線にはみ出し、大型ダンプカーと正面衝突し、乗用車に乗っていた夫婦と2人の孫が死亡する事故が発生。
2016年9月には八雲町浜松で、乗用車と大型トラックが正面衝突し、乗用車に乗っていた女性2人が死亡している。
また、2012年2月には八雲町東野で、乗用車とトラック2台の計3台が衝突する事故が発生。
乗用車を運転していた男性が死亡した。
八雲町は相次ぐ事故を受け、ホームページにて国道5号線を利用するドライバーに向けて『国道5号線八雲町通貨の心得』と題し、「国道5号線はまっすぐな道が続くため、眠気を感じやすいうえ、スピードを出しても大丈夫だと思い込む人が多い」などと注意喚起していた。
事故を防ぐためには、スピードの出し過ぎに注意し、安全運転を心がけるほか、途中で休憩を取るなどゆとりある運転をするようにも呼びかけている。

運転手の体調と事故の因果関係を捜査
バス会社によると正面衝突した高速バスは、6月18日午前7時50分札幌発“高速はこだて号”で、函館に向かって八雲町の野田生地区を走行中だった。
バスの車内には、運転手1人と18人の乗客が乗車。
バスの車内の座席は3席ずつ横並びで配置されており、亡くなった3人の乗客は、運転席のすぐ後ろの座席に並んで座っていたという。
バスに乗車していたという男性は事故の様子について、
「急ブレーキをガッと踏んだら前に行くような感じでドーンと(当たった)」と語り、着用していたメガネが飛んでしまったため、
一瞬「何が起こったのかわからなかった」と事故を振り返った。
そして高速バスと正面衝突したトラックは、青森県の養豚会社“日本クリーンファーム”が所有するトラックで、運転手1人が乗っていた。
日本クリーンファームの吉原洋明社長は死亡した65歳の運転手について、
「長年にわたって運搬業務に携わっており、物損も含めて大きな事故歴はなく、事故現場付近の道路はよく運転していた場所」だという。
また、事故当日の健康状態については「会社として異常はない」との認識を示し、直近の3カ月の勤務状況には長時間勤務や過重労働はなかったとしている。
しかし、事故の発生前に運転手が会社に体調不良を申し出ていたことが新たにわかった。
事故前日の6月17日、運転手は同僚に「熱があり、体調が悪い」と話し、風邪薬を服用していたが、運転ができないほどの様子ではなかったという。
北海道警察が6月27日にトラックの検証を行ったところ、目立った異常は確認されなかった。
事故現場にブレーキ痕が残っていなかったことやバスの後続車のドライブレコーダーの記録からも、運転手がなんらかの原因で運転操作を誤って対向車線にはみ出し、減速せずにバスに衝突した可能性が高いと見て捜査を進めている。
同時にトラックの運行管理に問題がなかったか、運転手の体調の変化と事故の因果関係を調べる方針だ。

安全運転を呼び掛ける啓発活動
事故発生から1週間が経った6月25日には、現場付近で北海道警察が速度違反の集中取り締まりを行い、道路を走行するドライバーに安全運転を呼び掛ける啓発活動を行った。
警察は“可搬式速度取り締まり装置”を使用し、電光掲示板には「いのちだいじに」「安全運転」とのメッセージを表示。
また、町内の関係者が「スピードダウン」などの言葉が書かれた旗を振り、走行するドライバーに対し注意喚起を行った。
走行する車の多くはスピードを緩め、メッセージを確認している様子が見られた。
八雲署の佐々木義幸署長は「今年に入って死亡事故が相次いで発生している」とし、「地域一丸となって事故防止に取り組みたい」と話した。
活動に参加した八雲地区安全運転管理者協会の吉村達巳会長は国道5号線について、「以前から事故が絶えない危険な道路」だと話した。
国土交通省の北海道開発局に陳情し、何か所か中央分離帯を整備してもらった場所があるという。
「ソフト面で、ドライバーに向けての安全指導や啓発活動に改めて力を入れていきたい」としたうえで、
「今回の事故の一番の教訓は、安全対策として最も効果があるのは危険箇所への中央分離帯の設置」だと語り、
「道路管理者にはハード面の整備をぜひお願いしたい」と要望した。
現場には花束を供え、手を合わせる人々も訪れていた。
事故原因の解明が待たれるが、多くの人々の願いやメッセージが届き、悲しい事故が繰り返されないことを願いたい。
