クフ王のピラミッドに新たな空間 186年ぶりの発見
エジプトにある世界最大のクフ王のピラミッドの内部に、これまで知られていなかった通路のような空間があることがわかった。
エジプト観光・考古相が3月2日に発表した。
名古屋大などが参加する国際調査チームが発見し、新たな空間の発見は186年ぶり。
いまだに謎が多いピラミッドの構造の解明に繋がることが期待されている。

「今世紀最大の発見。何かが隠されている」
首都カイロ近郊のギザにあるクフ王のピラミッドは約4500年前に造られたとされ、古代エジプトの第四王朝(紀元前2500年ごろ)のクフ王の墓とされている。
底辺の一辺が約230メートルの正四角錐で、高さは約139メートル。
現在は頂部のキャップストーンがなくなってしまっており、元々は高さ約146メートルだったという。
完成時には石灰岩の化粧石で覆われ、白く輝いていたが、イスラム時代にカイロの街を造る建材に使われたため、現在は下地の石が露出。
階段状の表面は203段あり、石材は一つあたり2.5トンほどで、230万個の石材が使われていると推定される。
今回、空間が見つかったのは北側の入り口付近の斜面から中央部へ向かって伸びる通路のような場所。
縦横2メートルで、奥行きは9メートル。
エジプトの考古学者のザヒ・ハワス氏は
「この通路は今世紀最大の発見だ。
私はこの通路の下に何かが隠されていると信じていて、数か月後にはその結果もわかるだろう」と語った。
クフ王のピラミッドは謎が多く、内部も複雑で特異な形状をしている。
地下室があるが、そこから伸びる通路がどこにも繋がっていなかったり、女王の間と呼ばれる空間が未完成だったり、何を目的に造られたのかはっきりしないものが多い。
建設についても、紀元前の重機もない時代に人力だけであれほど巨大なものをどうやって造ったのかは議論の対象となっている。
大林組の試算では、現代でクフ王のピラミッドを造ると総工費は1250億円で工期は5年と見積もった。
4500年前の当時の工法で、人力で建てた場合は工期が長引く分、人件費もかさみ約4兆円もの巨大プロジェクトだったと推定している。

「ミューオン」利用 日本などの調査チームが発見
今回の空間を発見したのは、2015年からエジプトと日本、フランス、ドイツなどの研究者で構成される国際調査チーム。
調査では宇宙から降り注ぐ「ミューオン」という素粒子の量から物質の質量を計測する特殊技術が使われた。
過去には東京電力の福島第一原子力発電所の原子炉の内部を調べる時にも使われたことがある。
ミューオンは小さいため、物質を通り抜けていくが、岩などの密度が高い物質は通り抜ける粒子の数が少なくなる。
この性質を利用して、建物を通り抜けるミューオンの量の違いを計測することで、建物を損傷することなく内部の構造を透視することができる。
調査チームでは2017年にも同じ技術を使って、ピラミッド内部に今回とは別の巨大な空間が存在するというデータも得ており、さらに新しい発見につながる可能性もある。
調査に参加した名古屋大の森島邦博准教授は
「今回の発見で最も興味深いのはファイバースコープを使って内部を確認することができたこと。
通路は構造的にも何らかの意図をもって人工的に造られていて、非常に驚いた」と語る。

ユーチューバーの研究者は新たな調査技術の今後に期待
エジプト考古学者で名古屋大高等研究院の河江肖剰(かわえゆきのり)准教授は
「ピラミッド研究の歴史に残る発見。
新たな技術を使ったという点でも重要」と言う。
河江准教授は古代エジプトを解説するYoutubeチャンネルを開設していて、ピラミッドの内部を紹介したり、ピラミッドの謎について発信。
2時間近い大作が130万回以上再生されるなど、人気コンテンツとなっている。
新たに見つかった通路のような空間について、河江准教授は目的はわからないとしながら、
「見つかった空間の下にある入り口を構造的に守るための役割を果たしているか、もしくは儀式の中で使われていたが、最終的にふさがれたということが考えられるのではないか」と推測。
今回の発見で調査技術の正確さが証明されたことで、クフ王のピラミッドの新たな空間の発見や、他のピラミッドの構造解明につながる可能性があるという。
