DNAをズタズタにされたがん細胞は免疫細胞に殺してもらうための信号を出す
「半殺し」にしたがん細胞を体に戻すと免疫療法が上手いくことが判明した。
米、マサチューセッツ工科大学(MIT)が行った研究によってマウスの体内から切り取った、がん細胞のDNAをズタズタ(半殺し)の状態にした後、再びマウスの腫瘍に戻したところ免疫療法による治療効果が大幅にアップしたことがわかった。
この新たに開発された「半殺し」法は黒色腫と乳癌に対しても効果を発揮し、免疫療法の併用によって40%、マウスの、腫瘍が完全に消滅したことが分かった。
一部の細胞を半殺しにしただけで、免疫システムは腫瘍全体を攻撃したのだろうか?
実験ではまずマウスの腫瘍から、がん細胞を摘出しDNAをズタズタに「半殺し」状態にした後、再びマウスの体内の腫瘍に戻します。
なお、一般的にはDNAが損傷した細胞は免疫に介錯を求める信号を発しはじめます。
すると半殺しになった、腫瘍内部においてもがん細胞は介錯を求める信号を発し、免疫細胞は腫瘍全体を攻撃対象にすることができ、黒色腫と乳がんだったマウスの腫瘍が40%で完全に消滅したことが判明した。
がん化した細胞にも健康だった時と同じく自死により異常化を防ぐシステムが残っていたようです。
免疫細胞の力を強化し、がん細胞を殺そうとする免疫療法は、がん治療において画期的なアプローチとされました。
しかし、免疫療法は完全ではなく、がん患者全体の13%未満にしか効果がありませんでした。
効果が限られている原因は、免疫細胞を十分に活性化させることがあります。
そのため今回は、MITの研究者たちによって、がんになったマウスから腫瘍の一部を取り除き、化学薬品で「半殺し」にし、改めてマウスの腫瘍に戻すという方法を免疫療法との組み合わせで試してみることにしました。
健康の細胞が回復の見込みがないほど大きく損傷した場合、がん化などの深刻なエラーを起こす前には免疫システムに対して、自らの「介錯」を求める信号を発するとされます。
なお、ここで言われる「介錯」とはアポトーシスの一種で回復の見込みのない細胞は自ら信号を送り、免疫細胞に殺されようとするのです。
がん細胞にも「介錯」を求める仕組みが残っていた場合に免疫細胞に介錯信号を認識させることで、がん治療に役立つ可能性があったからです。
MITの研究者らはマウスから摘出した腫瘍に対し、様々な化学薬品をかけて「半殺し」にした後、それをまたマウスの体内に戻して免疫療法の有効性を試すという手順を繰り返し行いました。
その結果、DNAに損傷を与える化学薬品で「半殺し」にした場合、最も免疫療法の効果があることが判明したのです。
DNDをズタズタにされて「半殺し」となった、がん細胞は腫瘍に戻された後も免疫細胞に自らの「介錯」を求める信号を発し続けており、免疫細胞は半殺しになったがん細胞だけでなく、「腫瘍全体を介錯の対象」と認識し攻撃を始めたとされます。
これはすなわち、細胞はがん化し変わり果てた姿になっても、正常な細胞だったころの介錯誘引システムを残していたとされます。
そして今回の研究により、DNAを損傷させたがん細胞を腫瘍に移植することで、免疫療法の成功率が劇的に上がることが示されました。
がん化した細胞にも異常化を防ぐ最後の手段として介錯誘引システムが残っており、腫瘍に移植されることで腫瘍全体を免疫細胞の攻撃ターゲットにできました。
追加の実験では半殺しにしたがん細胞をマウス体内の腫瘍本体に戻すだけでは、治療効果がないことが判明しました。
免疫療法によって免疫力がブーストされた状態でなければ、半殺しにされたがん細胞が発する「介錯」を求める信号を免疫細胞が感知できなかったからとされています。
さらに興味深いことに、半殺しにされたがん細胞は、半殺しにされたウイルス同様にワクチンとして働くことも判明します。
(※新型コロナウイルスのmRNAワクチンは弱らせたウイルスではなくmRNA(核酸)が主成分です)
研究者が数ヶ月後にがんが完治したマウスに、がん細胞を注射したとき、マウスの免疫細胞は侵入してきたがん細胞を認識し、新しい腫瘍を形成する前に破壊することに成功したのです。
研究者たちは今後、DNA損傷をともなうがん細胞の半殺し法を、免疫療法が上手くいかなかった人間の患者にも試してみたいと考えています。
上手くいけば、免疫療法の有効率を劇的に向上させ、がんの完治や予防につながるかもしれません。

免疫と免疫療法
免疫はウイルスなどが体内に入ってくるのを防いだり、排除したりして体を守る役割を持っています。
免疫は常に同じ状態にあるわけではなく、弱まったりウイルスを排除するために強まったりし、この免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法を「免疫療法」といいます。
免疫では、免疫細胞と呼ばれる血液中の白血球などが中心的な役割を果たします。
このうち「T細胞(Tリンパ球)」には、がん細胞を攻撃する性質があり、免疫療法で重要な役割を担います。