外国人に住民投票権は否決 諦めない武蔵野市長見直して再提出?
東京都武蔵野市で住民投票条例案が、市議会本会議で採決されて反対多数により否決された。
この条例案は、武蔵野市の住民基本台帳に3か月以上登録される18歳以上に、国籍をとわず住民投票資格を与えるというもので、実質、外国人の住民も日本人同様の条件で住民投票に参加が可能となり、市内に3か月以上在住する留学生や技能実習生も含まれることになる。
年齢、性別などによらない生きやすい街づくりを目指す松下玲子武蔵野市長が11月19日に市議会に条例案を提案、12月13日に総務委員会で委員採決では可否が同数となったため委員長投票で可決となり、12月21日の本会議で採決が行われ、立憲民主党系や共産党系の会派などの賛成が11票、自民党系や公明党系の会派による反対14票で否決された。
反対票を入れた会派は、市民に十分理解されていないこと、そして広い意味での外国人の参政権につながるという理由を挙げた。
武蔵野市によると、この度の条例案と同じように、外国籍の住民に投票権を認めるのは、常設型住民投票条例を有する全国の78自治体のなかで43自治体(2020年12月現在)ということである。
住民投票権の要件を日本国民の住民とおなじくするというのは、神奈川県逗子市、大阪府豊中市の2市だけで、もし武蔵野市のこの条例案が可決されたとすれば3例目になるはずであった。
ちなみに、常設型住民投票とは、地方公共団体が条例で定める住民投票のうち、先に制度の仕組み、要件等を条例で定め、それに基づいて実施する住民投票のことである。
この条例案では、投票の資格を有する者の総数のうち4分の1以上の署名があれば住民投票の実施を市長に請求可能で、投票資格をもつ者の数2分の1以上の投票で成立した場合、市長と議会がその結果を尊重するとする内容であった。
住民投票制度の種類は今のところ大きく分けて1)憲法に基づく住民投票、2)法律に基づく住民投票、3)条例に基づく住民投票、の3つがある。
1)と2)は住民投票の結果をもって議会や長の意思決定を拘束するが、3)の条例に基づく住民投票は法的拘束力がないとされる。
この度否決された武蔵野市の条例案はこの3)の部分である。
賛成派は、条例による住民投票は、単なる意見の表明に過ぎず、市長や議会はその結果を尊重するよう求めらるものの、法的な拘束力がないので外国籍市民に投票権をみとめたところで、憲法に反するということではない、と主張する。
憲法94条では、地方公共団体(すなわち自治体)が法律の範囲内において条例を制定することができると定めている。
しかし日本の法律では、外国人が住民投票で投票することを禁止または制限する規定は存在しない。
なので、住民投票に関して条例を定めて外国人に投票資格を認めるのは憲法に反することではない。
一方反対は、実質的に外国人に認められていない参政権を認めることになり憲法に違反する、住民投票が政治的に利用される恐れがあるのではないか、外国人の意思が政治的意思決定に影響するのではないか、と懸念する。
また、市長や議員を選ぶのは日本国籍を持つ住民で、これによって二元代表制(長と議会を住民が選挙で選び、選ばれたものが直接住民に対し責任を負う制度)が成立するので、そこに外国人などの投票者の意思が地方行政に反映されれば議会機能が低下する恐れがあるという。
外国人の意見であればアンケートなどでよいのではないかという意見も出ている。
松下市長がこの条例案を提出するにあたっては、外国人だからという理由で地域の問題にたいして意見表明するという権利を与えないことに関して、理にかなった理由が見つからないと訴えていた。
また、憲法に反するのではないかとの意見に対しては、憲法違反ではないときっぱり回答している。
その根拠は、市長や議員を選ぶ選挙権とは異なるものであるから、である。
本会議で条例案が否決されたことにつき、松下市長は取材陣に向けて、否決されたという結果は重く受け止めた、と語り、市として議会で説明、市民に向けてアンケートを実施して周知に努めたつもりであったが、「もっと周知を行ったうえで制定するべき」という議会の意見を受け止めたい、とした。
そして、この結果を踏まえてさらに検討し、人権尊重、多様性容認、ささえあう社会の構築を考えたい。そのうえで、時期は未定としながらも内容を見直した住民投票条例案を市議会に再提出したいとの意向をしめした。
武蔵野市の統計によると、令和3年(2020年)12月1日現在、武蔵野市の総人口は148,117人で、日本人は全体の97.9%に当たる145,014人、外国人は3,103人。
国籍別で最も多いのが中国1,078人、次いで韓国・朝鮮の507人、次いでアメリカ215人、ネパール193人、台湾168人、ベトナム118人、フィリピン103人であった。
また世帯数は78,269世帯、そのうち約96.86%にあたる75,818世帯が日本人のみの世帯、約2.2%の1,722世帯が外国人のみの世帯、残り0.94%が日本人と外国人の混合世帯であった。