社会・文化

政府の“脱マスク”方針に揺れる各学校の卒業式

卒業式におけるマスク着用が議論に

3月の卒業式シーズンが目前に迫り、卒業式におけるマスクの着用について議論になっている。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大以降は、卒業式の中止や縮小が相次いでいるが、今年はほとんどの学校で卒業式が行われる。

昨年行われた卒業式ではマスクの着用が必須だった学校がほとんだったが、2月10日に岸田首相が「今年の卒業式は、換気などの感染対策を講じたうえでマスクを着用しないことを基本とする」との方針を打ち出した。

岸田首相の方針表明に先立って、2月8日、厚生労働省に新型コロナウイルス対策を助言している専門家らは、学校の卒業式や入学式でのマスク着用について、「一生に一度の行事で、外したい気持ちもわかる」とし、「つけないこともあり得る」との見解を出していた。

そのうえで、「体調に不安があれば参加しない」

「参列者同士の距離を空ける」

「会場の換気を十分に確保する」

「近い距離での会話を慎む」

「マスクを『着ける』『着けない』の判断は本人の意思を尊重する」などの配慮点も示した。

これを受け、各市町村や学校でマスクの着用を巡ってさまざまな意見が飛び交っている。

神奈川県の教育委員会は、2月15日、「卒業生にはマスク着用を求めない」と各学校に通知し、学校から保護者にも伝えられた。

この連絡を受け、県立高校の保護者たちの間では「卒業生もマスク着用を原則とせず、感染対策は大丈夫なのか?」と戸惑いや不安が広がっているという。

5月には新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同等の『5類』に移行するが、3月に行われ、参列者が多い卒業式でマスクの着用を求めない決定に、不安や違和感を覚える人が多いようだ。

保護者2人の参列を認めている高校では、会場が密になる恐れが拭いきれず、現状では原則着用が望ましいという意見が多い。

マスクを着用せずに参列するのは、高校入試の対応にも追われる状況の中、感染対策のうえで不安が大きいという。

教育委員会から通知された文書に、対応を十分検討した様子が感じられなかったことにも不信感が残り、「4月からの新生活を控えている生徒の安全について、どこまで考えているのか疑問」だと話す。

そして、生徒達は卒業式よりも、今は大学入試のことで頭がいっぱいという状態の生徒が多い様子だ。

対応を十分検討した様子が感じられなかったことに不信感が募る
対応を十分検討した様子が感じられなかったことに不信感が募る

各学校や個人の判断に委ねる

福井県の教育委員会も政府の方針を受け、小中高校に対しては「マスクを着用しないことが基本」との通知を出した。

そのうえで、学校の規模や地域の状況などは学校によって異なるため、マスク着用の有無に関する最終的な判断は「各学校に委ねる」としている。

各学校で対応を協議しているが、「学校としての判断はせず、個人の判断に任せる」と決定した小学校もある。

この学校の6年生の大半の生徒は、「外して参加する」としている。

しかし、「外さない」「迷っている」という児童も多く、マスクを外すことが「恥ずかしい」と答えた児童や「感染が怖いから外さない」と話す児童もいる。

政府の方針は同じ学校内やクラス内でも意見が分かれ、混乱を呼んでいる。

校長は「政府は、卒業式を脱マスクのモデルケースにしたいんだと思う。

でも、マスクの着脱は関係なく、卒業式は児童を送り出す場なので、私達が判断するものではない」との意見を述べている。

別の中学校では職員会議を開き、「どのタイミングでマスクを外すか。

外したマスクはどうするか」などの細かい点を検討したという。

しかし、やはりこの学校も最終的には生徒の判断に任せることになった。

校長は「今年の卒業生は入学からずっとマスクを着けているので、最後ぐらいは表情を見ながら送り出したい気持ちはある。

しかし、個人の判断を尊重する」との考えを述べた。

一方、原則マスクを着用して参列することを決めた高校もある。

「大学入試での2次試験を控えていたり、就職先の研修を控えたりしている生徒もいるため、リスクを抑えたい」と話す。

生徒の状況、学校の設備によって見解も様々。
生徒の状況、学校の設備によって見解も様々。

みんなの顔が見たい気持ちはあるけれど…

愛知県の高校では、卒業式のリハーサルを行った際に校長から生徒達に「卒業式は基本マスクを着用しませんが、マスクを着用するかしないかは個人の判断に任せます。

よく考えて決めてください。

自由です」との話があった。

この高校では卒業生と教員のマスク着用は個人の判断に委ね、保護者や来賓は着用を求める方針とのこと。

今年卒業する3年生は、入学してすぐ休校になったり、学校行事が続々と中止や縮小になったり、新型コロナウイルスに振り回され続けた高校生活だった。

卒業式では昨年に続き、今年も合唱はなく、吹奏楽部の演奏が披露されるという。

また、在校生は校内の別の会場からリモートでの参列となる。

3年間、マスク越しにしか見てこなかった友達の顔を、最後はマスクなしで見たいという思いはあるが、3年間マスクの着用が当たり前だっただけに、今から外すことに恥ずかしさや抵抗を感じている生徒も多く、個人の判断に委ねられても決めかねて困っているようだ。

地域や学校、個人によってマスクの着脱についての判断が分かれ、政府の脱マスクの方針を受けて、混乱が生じている。

卒業生にとって晴れの舞台である卒業式が、混乱を避け、卒業生も送り出す側も気持ちよく思い出に残る1日になってほしいと願う声は多い。

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