市川猿之助容疑者を逮捕　母の自殺ほう助の疑い

 警視庁は6月27日、歌舞伎俳優の市川猿之助、本名・喜熨斗（きのし）孝彦容疑者（47）を母親の自殺を手助けしたとする自殺ほう助の疑いで逮捕した。

先月、東京都目黒区の自宅で両親と共に3人が倒れているのが見つかり、両親は死亡した。

調べに対し「両親が自殺する手助けをした。

後を追って自分も自殺するつもりだった。

週刊誌の報道がきっかけだった」という趣旨の供述をしているという。

「週刊誌報道きっかけ、みんなでさよならすることに」

　事件は5月18日午前、猿之助容疑者のマネージャーが自宅を訪れた際に、猿之助容疑者と父親の市川段四郎さん（76）と母親（75）が倒れているのを発見し、消防に通報した。

　猿之助容疑者は意識がもうろうとした状態で病院に搬送された。

両親は死亡が確認され、その後の司法解剖で段四郎さんの死因は向精神薬中毒の疑いとわかった。

両親と猿之助容疑者からは睡眠薬の成分が検出され、以前に猿之助容疑者が処方されたものだったという。

　両親は2階で発見され、猿之助容疑者は地下の別の部屋で見つかった。

遺書のようなものも残されていた。

　猿之助容疑者については、心中を図った当日に週刊誌がセクハラとパワハラ疑惑を記事として出した。

その中で劇場のスタッフにキスを強要したり、コロナ禍にホテルで大規模なパーティーを開いた際に若手俳優に一緒に入浴するよう求めたりしたといった内容が関係者の証言として書かれた。

5月15日に本人を直撃取材した様子も掲載されている。

　この記事の影響で猿之助容疑者は「週刊誌報道をきっかけに家族で話し合い、みんなでさよならすることにした」と説明しているという。

睡眠薬やビニール袋「処分した」

　警視庁の調べでは猿之助容疑者は両親との3人暮らし。

第三者が侵入した形跡や両親が抵抗したあとがないことから、本人の説明に基づいて一家心中の疑いが強いとみて捜査が進められた。

　ただ、両親が死亡しており、本人の供述に頼る部分が大きいため、事件発生から逮捕まで1カ月半近い時間を要した。

また、猿之助容疑者が使用したとみられる睡眠薬やビニール袋が見つからず、「自分が処分した」という趣旨の供述をしていることから、不明な点も残っている。

　母親の死亡については自殺ほう助の罪を適用したが、父親についても今後の捜査で再逮捕などの手続きがとられるとみられる。

自殺ほう助罪は、自殺の手段を提供したり、方法を教えたりした場合に6月以上7年以下の懲役または禁錮を科すというもの。

被害者の依頼によって殺害した場合の嘱託殺人罪の可能性もあったが、警視庁は両親が死亡して証言が得られない中で、睡眠薬を用意したという点で、自殺ほう助罪は立証できると判断したとみられる。

スーパー歌舞伎で人気も今後は不透明

　猿之助容疑者は1975年、市川段四郎の長男として東京で生まれた。

1980年の初お目見得を経て、1983年に二代目市川亀治郎を襲名し初舞台を踏んだ。

　2012年に四代目市川猿之助を襲名。

三代目市川猿之助が始めた現代風に歌舞伎をアレンジして宙乗りなど派手な演出を取り込んだスーパー歌舞伎も手がけ、人気を集めていた。

スーパー歌舞伎セカンドとして、漫画の「ワンピース」を題材にしたもので演出とルフィ役を担った。

　2020年にはTBSドラマ「半沢直樹」にも出演。

2024年には漫画「鬼滅の刃」をテーマにしたスーパー歌舞伎の公演も発表されていたが、総合演出を務める予定の猿之助容疑者の事件で上演が不透明となっている。

　猿之助容疑者の事件を受けて、六月大歌舞伎では中村壱太郎が代役を務め、七月大歌舞伎は市川中車（俳優名・香川照之）が代わりに出演する予定など、関係者は対応に追われている。

　テレビ朝日は制作した劇場版「緊急取調室　ＴＨＥ　ＦＩＮＡＬ」に猿之助容疑者が出演していることから公開を延期。

ネットで配信している過去作品についても逮捕を受けて配信停止の方向で進めるという。