作物食い荒らす害獣、キョンが千葉で大量出没!
特定外来生物であるシカ科の「キョン」が千葉県内で大量に発生し、住民たちは被害に困っている。
体長、約70㎝ほどで可愛らしい見た目とは裏腹に、キョンの鳴き声や食害に悩まされている住民は少なくない。
近隣住民いわく、その特徴的すぎる鳴き声は「ギャー!」と、おじさんが叫ぶような野太いものであるという。
本来、キョンは日本に生息していない動物なのだが最近は千葉県の道路や庭など住宅街のいたるところに出没している。
被害の実態を知るために取材を進めてみると、私たちの生活に影響を及ぼし始めている現実が見えてきた。

キョンとは!?
シカ科の動物で環境省指定の外来生物であるキョンは独特な鳴き声が特徴である
基本的には中国の南東部、広東省及び台湾に生息しているとされている。
キョンは森林ややぶなどに生息することを好み、群れを作らず単独で行動することが多く、木の葉や果実などを好んで食べる。
“人よりキョンの数の方が多い”
千葉県が発表した2020年度の推計では、県内に生息するキョンの数は約5万300頭。2013年度の2万5000頭に比べて約2倍に増加している。
元々は、房総半島南部の動物園で飼われていた「キョン」が逃げ出してしまい、野生化しどんどん増えていったとされている。
「キョンがよく出没する場所がある」
40年にわたって鳥獣対策に取り組んできたベテラン猟師の鈴木しずおさんによると勝浦市内の閑静な住宅街では1時間で約5頭のキョンを目撃できるそうだ。
この地域に住む住民によると3年ほど前から、キョンをよく見かけるようになったという。
住民は「朝早く散歩すると、人より完全にキョンの数の方が多いです。見た目はすごくかわいいです。でも、キョンの鳴き声を聞いたときは驚きましました。『わー!』って、もう何事かと。あんな太い声を出すとは思わなかった。。夜に鳴くので安眠も妨げられています。」と語った。
この住宅街の近くにある畑では、さつまいもやかぼちゃなどが食い荒らされる被害も出ていた。
被害に遭っているのは農家の方は「農作物を作っても全部キョンに食べられてしまう。獣のために餌を作ってるようなものだから、もう作るの嫌になっちゃって。かぼちゃを作るのは今年もやめました。」と話した。
千葉県によると、農作被害額は年間120万円にものぼる。
現在、行政が乗り出し年間5,000頭ものキョンを捕獲しているが、それでもキョンの増加ペースに追いついておらず、未だ解決策はまだ見つかっていないとされる。
猟師の鈴木さんは、人の多い都市部にも住み着くようになったことで、駆除も難しくなっているという。
「市街地では、人に当たる可能性があるので銃は使えない。あと、景観の問題でやたらに罠も使えない。だから駆除ができないよね…」
生息域も、2004年度には勝浦市など5市町のみに生息するだけとみられていたが、2020年時点では17市町にまで拡大。
さらに、東京から程近い柏市にも出没するなど、徐々に都心部に迫ってきている。
麻布大学獣医学部、加瀬ちひろさんによると、
「いのししは警戒心が強いので、人に慣れるまでに何週間もかかります。しかしキョンはすぐに人に慣れます。警戒心が低いので人に近い環境でも生活して繁殖できますから、都市部でも拡大できてしまう」

「キョン」高級皮革に
そんな中、地元の業者や猟師達は「キョン」の使用方法を模索している。
「キョン」のような有害動物の捕獲後は殺処分される事が多く、命を粗末にしてしまうに疑問を抱いていた所、特有のつやのある革に着目した。
キョン革は、鹿革の3倍以上の強度で繊維もきめ細かく、キョンの出身地、台湾では高級品とされている。
伝統工芸品「印伝」は台湾で生産され、漆で模様をあしらった財布などが人気である。
この「印伝」の大半は、中国から輸入したキョン革が使われていることに着目し、国産として生産することを決意。
「房州印伝」と名付けて売り出し始めた。
キョン革製品は「ずっと触っていたくなる肌触り」と質の良さが評価されているといい、「キョン革に注目が集まり、需要が高まれば捨てられるはずの有害動物の命も日の目を見ることができ、好循環が生まれる」と語った。

「房総ジビエ」
キョン肉は肉質も柔らかく脂肪も少ない為、中華料理では薄切りにし、野菜などで炒め物にされている。
味は牛肉の赤身に似た味わいで台湾では高級食材とされ、1頭分の値段は日本円で約6万円ほどかかるという。
現在、対策の一環として千葉県は捕獲されたイノシシとシカの肉を「房総ジビエ」と名前を付け、ジビエ料理コンテストの開催や、飲食店での活用などで消費を促している。
君津市の「猟師工房ランド」では、ジビエとしてキョンの肉も販売している。ほかの食肉と同じようにヒレやロースなどの種類があり、100グラムあたり810~1760円の価格で売られている。
「猟師工房ランド」の原田祐介代表によると、身質が軟らかく、味も美味しいのでキョンを目当てに客が来るという。
原田さんは「特定外来生物として有害動物を撲滅すべきという思いは行政と同じ。ただ、頂いた命を有効に活用する役割を担っていきたい」と話す。
