社会・文化

神戸家裁、連続児童殺傷事件の重要記録を破棄

1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件

1997年、兵庫県神戸市須磨区で起きた連続児童殺傷事件を覚えている人は多いだろう。

5人の小学生が襲われ、2人が殺害された痛ましい事件。

犯人として逮捕されたのは当時14歳の少年だったことで、全国に衝撃を与えた本事件。

このたび神戸家庭裁判所は、当時の事件記録全てを破棄していたことが明らかになった。

破棄されたのは、裁判の判決書に該当する少年審判の処分決定書・捜査書類・精神鑑定書などの非公開で、審議過程の検証ができる文書一式である。

最高裁判所による内規では、「史料的価値が高い記録の事実上の永久保存を義務付ける」とされているにもかかわらず破棄してしまったというのだ。

神戸家裁は「運用は適切ではなかった」と話しているが、破棄された経緯や時期は不明。

今回、少年事件でも重要な記録が破棄されたことが分かったことで、司法文書の保存のあり方が改めて問われている。

全国に衝撃を与えた事件
全国に衝撃を与えた事件

重要事件の裁判記録の保存期間は?

一般的に、少年事件の捜査書類や審判記録などは、少年の年齢が26歳に達するまで保存しなくてはならないことが定められている。

しかし、裁判所の内規で、史料や参考資料となるべきものは、「保存期間満了の後も、保存しなければならない」とされており、26歳以降の“特別保存(永久保存)”が命じられている。

そして、この内規の具体的運用を定めた最高裁通達(1992年2月7日付)は、保存期間の満了後も保存する対象として、世相を反映した事件で史料的価値の高いもの・全国的に社会の耳目を集めた事件・少年非行等に関する調査研究の重要な参考資料になる事件などとしている。

さらに、成育歴等を調べた少年捜査記録についても、保存に当たって同様の内規や通達がある。

なぜ破棄されたのか
なぜ破棄されたのか

少年法改正の契機となった重要事件

1997年2〜5月に神戸市須磨区の住宅街で発生した神戸連続児童殺傷事件は小学生5人が次々と襲われ、山下彩花ちゃん(当時10歳)と土師淳くん(当時11歳)が殺害された。

逮捕された少年Aは、“酒鬼薔薇聖斗”という名前で書いた挑戦状を死体遺棄現場に残し、神戸新聞社に犯行声明文を送るなどして少年審判を経て医療少年院に送致。

逮捕時は中学3年生の14歳で、当時の法律では刑罰の対象年齢未満だったが、本事件は少年法を厳罰化する契機ともなった。

2001年に少年法が改正され、刑罰の対象年齢が“16歳以上”から“14歳以上”に引き下げられたほか、犯罪被害者支援に目が向けられるきっかけにもなり、世間の大きな注目を集めた。

改正少年法では、被害者に記録の一部を閲覧したりコピーしたりすることを認め、2008年施行の法改正では、重大事件の被害者や遺族に、少年審判の傍聴を認めていた。

しかし、事件当時の少年審判は少年の立ち直りを重視していたため非公開とされ、同事件の遺族は傍聴もできず、記録を見ることすらできなかった。

神戸家裁は記録が永久保存されなかった理由や破棄された状況は不明としたうえで、「特別保存されなかった理由は不明。

また、破棄された当時の状況もわからない。

今の特別保存の運用の仕方からすると、本事件の記録保存の運用は、適切ではなかったと思われる」とコメント。

複写も残ってなく、紛失の可能性もないとのこと。

同事件の遺族は傍聴もできず、記録を見ることすらできなかった
同事件の遺族は傍聴もできず、記録を見ることすらできなかった

公文書である司法文書は国民共有の財産

ジャーナリストの江川紹子さんは、司法に携わる人達には、司法文書は公文書で国民共有の財産であるという意識が薄いのではと感じており、経緯や原因を徹底的に調査して、改善すべきだと語った。

また、殺人事件の被害者となった土師淳くんの父親は、「(事件記録の破棄は)大きな問題があると思う。

特殊な事案なので、今後の検証のためにも資料の保存は重要。資料が膨大な量だったとしても、デジタル化するなどして保存するべきだった」と憤る。

「遺族の立場では、保存されていたとしても閲覧ができないのが、破棄されたことには憤りを感じる」と話した。

今回神戸連続児童殺傷事件の記録が破棄されたことを契機に、今後は重要な文書がきちんとした運用の元で保管されるよう、今後の動きを見守りたい。

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