WBC決勝の最後 大谷はなぜスライダーを投げた?
WBCワールドベースボールクラシックで2009年以来の優勝を果たした日本代表「侍ジャパン」で、大谷翔平(エンゼルス)が最後に投げたスライダー。
アメリカ代表のマイク・トラウトを三振に仕留めたボールには、ある伏線があった。
マスクをかぶっていた中村悠平(ヤクルト)がその理由を明かす。

捕手の中村 トラウトが直球待ちと読む
アメリカとの決勝戦。3-2と日本がリードして9回のマウンドに上がったのは大谷。
この大会で大谷は初戦の中国戦と準々決勝のイタリア戦に先発。
クローザーを務めるのは初めてだった。
先頭打者を四球で出してしまったが、続くムーキー・ベッツを併殺に打ち取った。
ベッツに対して、中村は初球でスライダーのサインを出したが、大谷は首を振った。
大谷が選んだのはストレート。
自信のあるボールで押し、2球目もストレートでベッツを詰まらせ、ニゴロに仕留めた。
大谷はマウンドに上がる前、1人ずつアウトを取ればエンゼルスでチームメイトのトラウトが最後の打者になることは意識していたという。
しかし、先頭を歩かせてしまい「無理かな」とも思ったが、併殺に打ち取ったことで9回2死でトラウトとの対戦が実現した。
初球のスライダーはトラウトが見逃した。
続くストレートは空振り。
この空振りの仕方を見て中村は「トラウトが真っすぐに差し込まれている」と感じ、ストレートを続けた。
ストレートを4球続け、もう一度トラウトが空振りし、フルカウントにまでなった。
最後に何を投げるか中村が考える間で「仮に四球を与えても2死だから良し、という考えや初球のスライダーの見逃し方からきっと軌道は鮮明にわかっていないだろうという直感」があったという。
真っすぐに振り遅れていたトラウトがストレートを待っていると予想。
そして、スライダーのサインを出した。

「とんでもないボールがきた」当たると思った
サインを出すと大谷は「オッケー」とうなずいたように中村からは見えたという。
大谷が投じたスイーパーとも呼ばれる横に大きく曲がるスライダーで、トラウトは空振り三振。
球史に残る名勝負で、日本代表の3大会ぶりの世界一が決まった。
最後のスライダーを中村は「とんでもないボールがきた」と振り返る。
大谷の手を離れた瞬間はトラウトに当たるとすら思ったという。
そこから曲がって外角へ。
まるでサイドスローの投手が投げるスライダーのような軌道だった。
2009年に優勝した時はダルビッシュ有(パドレス)が最後の打者をスライダーで三振に打ち取った。
その再現のような大谷の投球だったが、中村としては2009年を意識したわけではなく、トラウトの打ち気などの気配からスライダーを選んだという。

中村は大谷のことは「宇宙人」
実は、この大会で中村が大谷とバッテリーを組むのは初めてだった。
もう一人の先発捕手だった甲斐拓也(ソフトバンク)と担当するピッチャーを分けていたため、中村は大谷のボールを一度も受けていなかった。
大谷からは「構えるところは甘めでいいので追い込んだら少しコースに寄ってください」と要望されたという。
初見だったが、優勝を決める大事な場面で中村は無事に大谷をリードした。
WBCでは大谷、ダルビッシュ有、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)という日本人選手では過去最高レベルの先発投手陣のボールを受けた。
ダルビッシュからは「オレ、150㎞以上投げるけど、技巧派と思ってリードして」とアドバイスを受けたという。
その中でも大谷は別格で、中村は大谷のことを「宇宙人」と表現する。
「佐々木も山本も最強。
その最強の2人と比較しても異次元なのが翔平です。
最強を超えてるから宇宙人。
僕は1イニングしか受けていませんが、メジャーで勝てる理由がわかりました」と語る。
次回のWBCは2026年。
大谷も出場への意欲を見せており、中村は36歳になる年だが、まだまだ現役でプレーできるだろう。
大谷と中村の今後の活躍に期待したい。
