若者にはびこる市販薬のオーバードーズ 死の危険性
若者の間で市販の薬を過剰に摂取する「オーバードーズ(OD)」が問題となっている。
覚醒剤や大麻などの違法薬物に手を出すわけではないが、市販薬を本来とは異なる使用法をすることで快楽や現実逃避の感覚を得ようとするもの。
死の危険と隣り合わせのため、専門家はメンタルケアの必要性など警鐘を鳴らしている。

10代だけの特徴「やめられない、止まらない」
若い世代のODの特徴は、風邪薬や鎮痛薬を大量に摂取すること。
ドラッグストアで普通に買えるもののため、ODが目的かどうかは区別がつかない。
厚生労働省が2018年に実施した調査によると、10代の薬物関連障害患者は主な薬物で「市販薬」を使用している割合が4割で最も高いことがわかった。
全国の精神科医療施設で入院や治療を受けた薬物関連障害患者を対象にした調査で、回答したのは10代から70代以上までの幅広い世代。
20代では市販薬の割合は1割ほどで、それより上の世代では1割に満たないほど。
10代だけ、市販薬の割合が突出している。
市販薬はせき止めや鎮痛薬、睡眠薬などで、若者は大量に摂取することでふわふわした感覚や一時的な高揚感を得るために使っている。
2014年の調査では市販薬を主な薬物としている回答者は10代ではいなかったが、2016年になると市販薬を使う割合が約2割を占めるようになり、2018年には4割にまで急増。
SNSの発達とともに情報が広まるスピードは格段に速まり、若者がこれまで接することがなかった薬物の情報までアクセスできるようになり、共有されているとみられる。
市販薬を使う若者は依存度が高く、「やめられない、止まらない」という病態が圧倒的に多いことも調査でわかった。

グリ下に集う若者 国内外で死亡例も
調査をまとめた国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦・薬物依存研究部長は、市販薬の乱用や依存に陥っている若者の多くは以前からリストカットや「死にたい」、「消えてしまいたい」といった生きづらさを抱えていると指摘する。
また、家庭や学校での問題を親にも相談することができず、1人で抱え込んでしまっているケースが多いという。
さらに、精神科の医師にも本音を語ることができず、思うように治療が進まないこともある。
この間、市販薬を過剰摂取するうちに薬理効果にも耐性ができて、摂取量が増えたり、一時しのぎではどうしようもできなくなってしまったりする。
大阪・ミナミの繁華街、観光名所にもなっている戎橋近くの「道頓堀グリコサイン」の下に若者が集う。
「いじめられて辛くて来た」、「勉強のプレッシャーから逃げたかった」、「家出した」。
理由は様々だが、10代の若者が寄り添って悩みを打ち明けあう。
ここがODをする場所にもなっているという。
若者の間では「グリ下」と呼ばれている場所だ。
SNSで話題になったことや報道されたことで以前よりは集まる若者が減っているというが、こうした居場所を求める潜在的な若者の数はまだまだ多いとみられる。
2021年には滋賀県で女子高校生が市販薬を過剰摂取して死亡する事件も起きた。
海外でも有名ミュージシャンが市販薬のODで死亡するなど、問題は国内だけに止まらない。

困ったら専門家に相談を
松本俊彦・薬物依存研究部長は、市販薬乱用の場合は使用量や頻度に個人差が大きく、統一的な基準を設けるのは困難と言う。そのうえで、市販薬の目的外使用、生活障害、中止が困難という三つの項目のうち、二つ以上が当てはまる場合には、すぐに専門的治療が必要と勧めている。
薬物の乱用に困っている人の相談窓口は、各都道府県に精神保健福祉センター、専門医療機関、ダルクなどの回復支援施設があり、連絡先は厚生労働省のホームページに掲載されている。
