替え玉受験は4年間で4000件以上!逮捕された関西の男の供述
インターネットの適性診断テストを替え玉受験
大学生の依頼を受け、企業の採用試験のためにインターネットで実施される適性診断テストを替え玉受験したとして、関西の大企業に勤める男が11月21日、警視庁サイバー犯罪対策課に逮捕された。
捜査関係者によると、「私電磁的記録不正作出・同供用」の疑いで逮捕されたのは大阪市北区に住む田中信人容疑者。
田中容疑者は京都大学大学院を卒業後、関西電力の社員として働いていた。
2022年4月2日、就職活動中だった20代の女子大学生からの依頼で、都内の大手クレジットカード会社が採用時に実施している適性診断テストのIDとパスワードを受け取り、自宅のパソコンからインターネット上で不正にログイン。
女子大学生の代わりに替え玉受験をした疑い。
取り調べに対し、田中容疑者は容疑を認めているという。
女子大学生も11月22日に書類送検され、事情聴取に対し、「自分の力でテストを受けても不採用が続いたので、替え玉受験を依頼した」と供述している。
「軽はずみな行為で企業に迷惑をかけて申し訳ない」「今後は自分の力で行動する」と、謝罪や反省の弁も口にしているという。
適性診断テストは、文章の読解力や計算能力などを見るもので、女子大学生は23社の企業のテストの受験を田中容疑者に依頼。
そのうち一部の会社のテストは通過したが、操作で不正が発覚したため、内定前の選考で辞退している。

替え玉受験にやりがいを感じていた
田中容疑者は調べに対し、「はじめは小遣い目的だったが、学生から感謝され、やりがいを感じていた」「今は反省している」と供述。
女子大学生から1科目あたり2000円、合計で10万円以上の報酬を受け取っており、2022年の1月から7月までの間に同様の手口で300件ほどの依頼を受けていた。
稼いだ金額は400万円以上になると見られている。
さらに、「4年前くらいから4000件以上やった」とも供述しており、SNSを利用して就活生を募り、現在までに総額1000万円以上の報酬を得ていたと見られる。
警視庁は余罪を調べている。
田中容疑者が働いていた関西電力は、「当社社員の逮捕は大変遺憾であり、重く受け止めている。
事実関係を確認したうえで、厳正に対処していきたい」とのコメントを発表した。
田中容疑者は、不正防止のため受験中の様子が監視されるテストの場合は、テスト問題が表示されるパソコンの画面を女子大学生と共有しながら、ワイヤレスイヤホンで回答を伝えていた。

Twitterで集客
田中容疑者のTwitterには、「京都大学院卒、Webテスト請負経験4年」「通過率95%以上」「Zoom画面共有も可能」などと書かれており、就活生を募っていた。
2022年6月に、JNN(Japan News Network)が田中容疑者と見られる人物に対し、替え玉受験に関してメールで質問をしたところ、
「繁忙期の3月とかは、1日30件近く受けていた」
「コネ入社や裏金入社が蔓延する現状を見ると、別に悪いことだとは思わない」
「以前、テストで落とされまくってうつ病になり、自殺寸前までいった人を見たことがあり、その人の代行をした結果、生活が上手くいき、生き生きとした生活を取り戻されたところを見て、すごくやりがいを感じた」
「人の心の助けにもなると思っている」などと返信があった。
替え玉受験を悪いことだとは思わないどころか、よいことをしているという意識が強かったようにも感じられる。
仕事から帰宅後、自宅で朝方まで替え玉受験を行っていたといい、報酬は銀行振込で受け取り、日々の飲食代などに使っていたこともわかっている。
Twitterには「TOEICも請け負います」とのツイートもあり、自宅からはTOEICの参考書などが押収されているため、就職試験以外にも請け負っていた可能性がある。
田中容疑者のような人物や組織は“Webテスト代行業者”と呼ばれ、学生の一部の間で依頼があり、替え玉受検が横行しているが、警視庁によると摘発されたのは田中容疑者が全国初だという。

今回の事件は氷山の一角
リクルートの就職みらい研究所の栗田貴祥所長は、「自分の希望通りの企業に就職できるかどうかということは、就活生にとって非常に大きな関心ごと。
そういう心持ちに漬け込んで、替え玉受験をすることはそんなに大きな問題ではないかのように誘い掛け、不正行為に走らせてしまうということは感心できることではない」と話す。
さらに「企業は、適性検査を入社後の配置や受け入れのフォローにも使用するため、不正行為をして入社した場合、本人にとっても企業にとっても、非常に不幸な形になってしまう」と語り、「個人が自覚をもって行動していくことが重要」としている。
最近、Webテストが増えており、自宅で受験できることから「誰かに替わりに受けてもらってもバレない」というような認識を持っている就活生が増えている。
今回のような請負業者に依頼しなくても、友だち同士でお互いに苦手な科目を交換して受験したり、何人かで集まって一緒に受験したりする就活生も多く、NHKで取り上げられるなど問題になっている。
Webテストの対策をする時間がなかなか取れないという悩みを抱えている学生も多く、何とかして受かりたい気持ちは誰にでもある。
しかし、栗田所長が言うように、人の力を借りて採用されたとしても、採用後に苦労するのは自分自身である。
また、犯罪行為なので、取り返しがつかないことになる。
簡単に替え玉受験ができるWebテストだからこそ、自力で努力することが必要であり、大切なことだろう。
今回の田中容疑者の逮捕は、不正行為の氷山の一角と見られ、警視庁は実態解明を進める方針だ。
就活生にとっても、今回の事件をきっかけに、替え玉受験を考えるのではなく、自力で努力して受かることを目標に試験に臨むようになればよい。
