波紋を呼ぶ同性婚を巡る岸田首相の答弁「社会が変わってしまう課題」
慎重に検討すべき課題と繰り返す首相
岸田文雄首相が同性婚の法制化に関して、国会で行った答弁が議論を呼んでいる。
2月1日に開かれた衆議院予算委員会にて、立憲民主党の西村智奈美代表代行の質問に答えた岸田首相は、同性婚の法制化について「全ての国民にとって家族観や価値観、そして社会が変わってしまう課題だ」という理由で、同性カップルに結婚の自由を認めないとする否定的な考えを示した。
首相が話す“家族観”や“価値観”とは、日本社会で圧倒的多数を占めている異性愛者による婚姻に関する固定観念だと見られる。
時代は変わり、日本社会も多様性に寛容な社会に変化しつつあるが、岸田首相は結婚の自由を願うLGBTQなど性的少数者の求めに応じれば、固定観念を重視する層の反発を招きかねないと慎重な姿勢を示した。
西村氏は“選択的夫婦別姓”や“同性婚制度”の導入を求めたが、岸田首相は「極めて慎重に検討すべき課題だ」とする答弁を繰り返した。
西村氏は岸田首相に対し、「何か逃げようとして『検討が必要だ』などと言うのは、政治家としていかがなものか」と不快感を露わにした。
そして、「アメリカのトランプ前大統領やロシアのプーチン大統領のお2人は、少なくとも「反対だ」と言っている。
『はっきりモノを言う』という意味では、岸田首相よりマシだと思う」と発言。
政策面では「(プーチン氏などと)全く相容れない」とも強調し、「実現を待っている方々の声を、過小評価しないでいただきたい」と批判した。
これに対し岸田首相は、「価値観や心にかかわる問題には、丁寧さが必要だと思っている」と理解を求めた。

G7広島サミットを前にした課題
日本は主要7カ国の中で、唯一LGBTQの権利擁護に関する法制度がない。
野党からは、5月に行われる“G7広島サミット”を前にして追及を受けており、予算委員会では西村氏も「G7の中で(LGBTQに関する)法制度がないのは日本だけ」だと批判。
超党派の議員がまとめたLGBTQへの理解を進めるための法案が、自由民主党の反対により国会に提出できないと指摘し、「少なくとも、サミットまでには成立させるということを党内に指示してほしい」と訴えた。
2021年11月~2022年1月にかけて、毎日新聞と埼玉大社会調査研究センターが実施した世論調査では、「同性婚を法的に認めるべきだと思うか?」との質問に対し、「認めるべきだ」と回答した割合は、18〜29歳の若い世代で71%だった。
ただし、賛成とする意見は年代が上がるにつれ減少し、70歳以上では25%という結果だった。
岸田首相の答弁を受け、同性婚制度の導入を目指して活動する公益社団法人“Marriage For All Japan ー結婚の自由をすべての人に ”はTwitterで
「家族の根幹は、ともに笑い、泣き、悩みながら人生を歩む中で培う愛情や信頼関係。
同性同士で結婚できるようなっても、何も変わらないのに」とツイートした。
脳科学者の茂木健一郎氏もTwitterを更新し、岸田首相の「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題」との発言に対し、
「じゃあ、世界のいろいろな国がもう変わっちゃったんだね。それは、大変だ!!!」とツイートした。
さらに「(岸田首相が)『異次元の少子化対策』とか言われているのはいいんだけど、正直、同性婚とか選択的夫婦別姓制度とかで『社会が変わってしまう』とか言っている古臭い価値観が、子どもを増やすという意味においては最大の障害になっているんじゃないかと思う。
岸田さんが『社会が変わってしまう』とか大げさなことを言っているとき、いったい誰に対してサービスして、何を守っているのか意味不明だと思う」とも綴った。
そして、「同性婚とか、選択的夫婦別姓制度とかとっとと認めたほうが、根本的な意味での少子化対策にもなると思うんだけど、岸田さんのまわりの自民党では違う考えなのか」と疑問を呈していた。

法の下の平等であるならば
アメリカで同性婚を認める判決が下されたのは2015年のこと。
世界的に見ても、同性婚を認める風潮が高まり、多くの国が同性婚やパートナーシップを認め、今後も増えていくことが予想されている。
日本でも自治体による「パートナーシップ証明」が広がりつつあるが、まだまだ少ない現状だ。
しかも、パートナーシップ証明は法的な拘束力がないため、婚姻関係にある異性夫婦と同等ではなく、法的には正式な夫婦と認められているわけでもない。
戸籍上はあくまでも他人同士なのだ。
それでも、日本の将来に希望をもつ同性カップルや、実際にパートナーシップ証明が認められて幸せに暮らしている同性カップルもいる。
しかし、先日愛知県議会議員の渡辺昇氏が、Facebookに「同性婚は気持ち悪い」などと書き込んでいたことが報じられた例からもわかるように、まだまだ日本では同性婚に対して嫌悪感をもったり蔑視したりする風潮が根強く残っているのも事実だ。
日本国憲法第24条1項には、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」との記述がある。
そのため、同性婚が法的には認められていないと解釈できる。
しかし、一部の見識者によると、“両性”とは男女のことではなく、“一つの独立した性”とする解釈もできるとの主張もある。
そして、日本国憲法の大元の大日本帝国憲法でこの条項が定められたときには同性婚について議論されたわけではなく、明確に同性婚を禁止する文言はない。
そして日本国憲法第14条には、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、 性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的、または社会的関係において、差別されない」とする、いわゆる“法の下の平等”が記載されている。
そのため、時代に沿った憲法の改定が必要なのだと訴える意見が多くある。
