卒業式のために整えた父親のルーツである髪形を否定され、式に参加できなかった高校生
「これはなんや?」否定された髪形
時代が大きく変化しているにもかかわらず旧態依然とした校則はまだまだ多い。
最近は理不尽な校則を“ブラック校則”と呼ぶなど注目されることが多いが、髪形が校則違反だとして卒業式への参加が許されず、隔離された卒業生がいる。
兵庫県姫路市の県立高校で、2月に行われた卒業式でのこと。
中国生まれで日本人の母親と米国籍の父親をもつ3年生の男子生徒は、卒業式前の頭髪検査で「髪が耳にかからないように」との指導を受けた。
巻き毛で横に広がりやすい髪質をしている生徒は卒業式前日に美容院に行き、髪が耳にかからないように短く切った。
さらに巻き毛でも整って見えるよう配慮し、黒人である父親のルーツを考慮して「コーンロー」と呼ばれる編み込みの髪形にしてもらったのだという。
生徒はコーンローについてインターネットで検索し、アフリカにルーツがある黒人文化の伝統であることを学んだ。
そして父親からも話を聞き、この髪形にすることを決めた生徒は派手にならないよう美容師と相談し、染色やつけ毛などはしていない。
卒業式を「特別な日」と考えた生徒自らが考えての行動だったが、卒業式当日に登校すると複数の教師から「これはなんや?」などと詰問された。
生徒は「髪が耳にかからないようにした」と説明したが、教師からは「校則に合っていない。高校生の髪形ではない」と言われたという。
生徒は生徒指導室で1時間待機させられた後、既に卒業式が始まっていた体育館の誰もいない2階席に行き、名前を呼ばれても返事をしてはいけないとの指示があった。
教師の指示通りに生徒は2階席で式に参加していたが、「式にいる意味がない」と思い、式の途中で両親とともに退席し、そのまま帰宅。
その後卒業証書や記念品を受け取りに学校に戻ったが、そのときもほかの生徒が誰もいない部屋に通され、トイレに行くときも教師がついてきた。
そして、校内で友人を待っていると「校内から出なさい」と言われたという。
教師の一連の対応に、生徒は「『今日はお前の特別な日ではない』と言われたようで悔しかった」と話した。

見られなかった我が子の晴れ舞台
生徒の父親は米国ニューヨーク出身の研究者。
日本人の母親が米国を訪れていたときに知り合って結婚。
成長した息子の晴れ舞台を楽しみに卒業式に参加しようと両親揃って学校に行ったが、教頭から「息子さんの髪形では卒業式に参加させられません」との説明を受けたという。
理由を聞いても「息子さん本人がルールをわかっているはず」との説明が繰り返されるだけで、明確な根拠や理由は説明されなかった。
父親によると、コーンローは黒人の髪質のままでも清潔感があり、米国では黒人の子どもや女性にも浸透している髪形。
「編み込みは、日本人が分け目を作って髪を整えるのと同じように黒人が髪を整える方法の1つ」と話し、
「ルーツである髪形を校則違反だと決めつけることは、差別に当たるのではないか」と疑問を投げかける。
生徒が卒業した高校の校則では、髪形について「流行にとらわれず、高校生らしい清潔なもの」と規定されている。
そして男子生徒の髪形については、「目や耳、襟にかからない」との基準があるほか、髪の色や加工などについて禁止する文言はあるが編み込みについての記載はない。
卒業式に出るために父親のルーツであり黒人としての伝統文化でもある髪形に整えたのは、生徒が校則を守ろうとした行動だった。
しかし、「校則違反」だとされて出席できなかった生徒は、「3年間を締めくくる友人との思い出づくりをすることができなかった」と嘆く。
「さまざまな背景や髪質の人がいるのに、校則違反だと決めつけるのはおかしい」と訴え、「ルーツを尊重してほしい」と希望する生徒。
学校側に取材した新聞社が「生徒の髪形のどの点が違反だったのか?」と質問したが、
「今まで指導してきたことと違うということ」だと回答するだけで、違反だとする髪形の具体的な部分について学校側からの説明はなかった。
そして、「伝統的な髪形を否定しているわけではなく、髪質に応じた指導をしてきた」と、指導の経緯を説明。
卒業式の参加については「別の場所で出席させるということであり、卒業式に生徒を出席させなかったわけではない」としている。

ツーブロックは危険なのか?
ブラック校則が社会問題となり、理不尽な校則を改めようとする動きが生まれている昨今。
今回の髪形を巡るニュースにはさまざまな意見があるだろうが、一生に一度である高校の卒業式に出るために父親のルーツである髪形に整えたことを否定され、友人と一緒に式に参加できなかった生徒の悔しさを理解できる人は多いだろう。
髪形を巡る校則といえば、2020年に東京都議会でツーブロックを巡るやり取りが話題になったことがある。
サイドを刈り上げるなど、上下で髪の濃淡が分かれる髪形のツーブロックを一部の都立高校が校則で禁止していることを受け、都議会議員が東京都の教育委員会にその理由を尋ねたのだ。
質問を受けた東京都の教育委員長は、「外見などが原因で事故や事件に遭うケースがあるため、生徒を守る趣旨から定めている」と回答。
この回答に対し、質問した都議は「事件や事故に遭うというデータはあるんですか?」とさらに質問。
そして「トラブルに遭ったら『あなたの髪形に問題がある』というメッセージが伝わりかねない。
ツーブロックを校則で禁止するのは社会の常識や時代の進展を踏まえたものとは言えず、学校独自のルールになっているのではないか」と指摘した。
この質疑の様子を収めた動画がTwitterに投稿されると、再生回数は数日で600万回近くに上り、6万件以上リツイートされ、多くの意見が寄せられた。
この答弁は別として、外見で判断されることはまだまだ多い世の中。
高校生が見た目で判断され、校則とは別の意味で理不尽な目に遭ったり危険に巻き込まれたりすることはないとは言い切れない。
また、学校側も校則をそう簡単には変えられない事情もあるだろう。
しかし、多様性やさまざまな価値観、個性が尊重される今の時代、そして外国籍の学生も増えている中で、髪形以外にも校則で規制されているものは多く、校則の見直しは必要だという意見が出ている。
まずは、さまざまな意見を出し合って、話し合うところから始めることが求められているだろう。
