社会・文化

SNSを利用した自殺悩み相談の利用者が急増! その背景と今後の課題とは?

厚生労働用によるSNSを利用した自殺相談事業

厚生労働省が自殺防止を目的とし、2018年3月からSNSを活用して始めた相談事業の利用が急増している。

利用者数は開始から3年連続で増加しており、2021年度は約25万9800件に達したという。

昔は電話で受け付けていた悩み相談だが、インターネットやSNSが発達したことにより、電話よりも気軽に相談しやすいため利用が急増したと見られている。

しかし、利用の増加により対応が追い付かず、パンク状態になっている。

その影響で、相談の内容により優先度が低いと判断された相談者に対する返信が滞っているという。

先日発生した札幌市東区のアパートから遺体で発見された女子大学生も、Twitterに死をほのめかすツイートを書き込んでいたことから死体遺棄の容疑で逮捕された男が接触したことが判明している。

男はTwitter上で自殺願望がある人達とやり取りをしていたとの供述をしていることから、事業者らは「SNSの利用者が相談できる受け皿の拡充が必要だ」と訴える。

SNSを活用した相談事業は、同省が民間団体に事業費を補助する形でスタート。

2017年に、神奈川座間市でSNSに自殺をほのめかすなどしていた9人が殺害された事件を受け、自殺防止の対策として始まったものだ。

初年度の利用数は延べ約2万7000件だったが、翌年以降徐々に増え、2021年度は一気に増加。

初年度に比べて10倍以上の数となった。

同省の自殺対策推進室は、「10〜20代はSNSでやり取りすることに対する心理的ハードルが低いため、利用が増えている」と話す。

SNSによる自殺相談が増加
SNSによる自殺相談が増加

相談数の急増で返信できないケースも

同事業は各団体が多数のボランティアの協力を得て対応に当たっているが、寄せられるメッセージの数が多過ぎて全く対応できていない状態だという。

1日に寄せられるメッセージの数は500件以上で、そのうち8割が20歳以下の若者。

相談の内容は、「生活が苦しくて将来が不安」「家庭や学校に居場所がなく消えてしまいたい」など、貧困や孤独に苦しむ声がほとんど。

日本全国の相談員が本業の傍らに対応に当たり、メッセージを読み返信をしているが、1件のメッセージで1時間近くやり取りするケースもあり、最初に返信できるまでの時間は平均で30時間、遅い場合は2~3日かかる場合もある。

SNSでの相談窓口は、24時間受付をしている「あなたのいばしょ」、火、日曜日以外の週5日の10時~22時まで対応に当たる「BONDプロジェクト」など複数の団体が対応に当たっている。

2018年3月から補助を受け対応している「NPO法人 自殺対策センター ライフリンク」(月、水、金、土 11時~16時半・月、火、木、金、土 17時~22時半)は、チャットで1日70~80件の無料相談に対応。

自殺する危険性が高い人を優先するため自動応答の仕組みを使い、事前に自殺リスクに関する質問に答えてもらう形を取っている。

「“死にたい”という気持ちは、今どれくらいありますか?」との質問に、「今、死のうと思っている」などの回答をした人は、相談員が通常より早く返信をする。

しかし、優先度が低いと判断された人には、返信ができないこともあるのだという。

同法人は、「命にかかわる問題なので、本来は悩みの深刻さにかかわらず速やかに対応したいが、限界がある」と話す。

そして、「SNSの相談はあくまで入り口なので、生活保護申請などの必要な支援につなげることが大切。

専門の相談員の確保と育成が急務」と訴えた。

専門の相談員と育成が急務
専門の相談員と育成が急務

自殺防止に対する今後の課題

日本の自殺者は、1988年~2011年まで14年連続で3万人を超えていたが、2012年に15年ぶりに3万人を下回った。

2010年以降は10年連続で減少が見られ、2019年は2万169人で、1978年の統計開始以来最少となっている。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大した2020年以降は、再び自殺者の数は増加傾向が見られている。

死因の順位を年代別に見てみると、15~39歳の死因の1位は自殺となっており、男性は10〜44歳で死因の1位が自殺。

女性も15~34歳の死因1位が自殺となっている。

自殺は、その多くが追い込まれた末の死である。

自殺する背景には過労、生活困窮、いじめ、孤立、育児や介護による疲れなど社会低要因による精神保健上の問題がある。

SNSを利用した相談サービスの利用が増えることにより、自殺を思いとどまる人が少しでも増えることは非常に喜ばしいことだが、現状のように返信されない人がいたり、対応するスタッフが大変な思いをしていたりする様子を見ると、さらなる対策が急務であるのは間違いない。

せっかく相談をしたのに返信がなく、その後追い込まれて自殺に至ってしまうようなケースがあってはならない。

自殺に至る直前は、大多数の自殺者が様々な悩みにより心理的に追い詰められ、抑うつ状態になったり、うつ病やアルコール依存症などの精神疾患を発症したりしている。

そして、その影響で正常な判断力を失って自殺に至ってしまう。

WHO(世界保健機関)によると、「自殺は、その多くが防ぐことのできる社会的な問題である」と定義されている。

自殺は社会の努力で防ぐことができるものであり、防がなくてはならないものでもある。

自殺者の減少に向けて、社会として何ができるのか、何が必要なのか、今問われている。

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