経済産業省に勤務するトランスジェンダーの職員、 女性用トイレの使用制限は違法だとする最高裁の判決
性的マイノリティーの人達の職場環境に関する判決は初めて
経済産業省に勤務するトランスジェンダーの職員が、女性用トイレの使用が制限されているのは不当だとして国を訴えていた裁判の判決が、2023年7月11日に最高裁で言い渡された。
訴えていたのは性同一性障害だと診断され、女性として社会生活を送っている50代の職員。
最高裁判所が下したのは、「トイレの使用制限を認めた国の対応は違法」とする判決。
性的マイノリティーの人達の職場環境に関して、最高裁が判断を示したのは初めてのこと。
今後はほかの公的機関や企業の対応にも影響を与えると見られている。
訴えを起こしていた職員の使用が認められたのは、執務室があるフロアから2階以上離れたフロアの女性用トイレのみ。
職員は人事院に処遇改善を求めたが、訴えが退けられたため、国の対応は不当だとしていた。
今崎幸彦裁判長は、「職員は自認する性別と異なる男性用トイレを使うか、(職員の)職場から離れた女性用トイレを使わざるを得ず、日常的に相応の不利益を受けている」とした。
職員が職場から離れたフロアにある女性用トイレを使用していてもトラブルが生じていないことなどから、
「人事院の判断は、ほかの職員への配慮を過度に重視し、職員の不利益を軽視したもの」とし、著しく妥当性に欠けていると指摘。
トイレの使用制限を認めた人事院の対応は違法であると判断した。
この判決は、裁判官5人全員の判断が一致したもので、経済産業省は今後トイレの使用制限を見直すことが求められる。

判決のポイントは?
1審の東京地方裁判所の判決では、「自認する性別に合った社会生活を送ることは、重要な社会的利益として保護されるべき」だと指摘されていた。
「職員は女性として認識される度合いが高く、男性用トイレを使うことも現実的に困難」と認め、「女性用トイレの使用を認めないのは違法」とした。
そのうえで、トイレの使用制限を認めた人事院の判定を取り消し、国に130万円余りの賠償を命じていた。
そして、2審の東京高等裁判所は「経済産業省には、ほかの職員の性的な羞恥心や不安を考慮し、全ての職員にとって適切な職場環境にする責任があった」と指摘。
「トイレの使用制限は違法ではない」と、1審とは逆の判断を下していた。
トイレの制限についての賠償は認めず、職員に対する上司の不適切発言のみが違法だと判断し、賠償額は大幅に減額した11万円とされていた。
今回の最高裁での争点は、「トイレの使用制限は問題ないとした人事院の判断が違法かどうか」という点にあり、損害賠償については審理の対象とされてはいなかった。
したがって、2審で支払いが命じられていた11万円という金額は、事実上確定していたことになる。
最高裁が下した判決は、職員が受けた不利益とほかの職員に対する配慮の必要性を、個別の事情を踏まえて検討したもので、今回のケースに関する国の対応が違法だと判断された。
今崎裁判長は「トイレを含め、不特定多数の人々が使用する公共施設の使用のあり方については、機会を改めて議論されるべき」との補足意見を述べた。
したがって、今後不特定多数の人が使用する公衆トイレに関する裁判が行われた場合は、今回とは異なる判断が下される可能性もある。

判決を受け、それぞれが示した考え
職員は判決後に記者会見を行い、「それぞれの事案を具体的に考えて対応すべきと述べた点は評価できる」と語った。
「今回はトランスジェンダーに関する判決ですが、ほかにもまだ差別が残っているほかの人権上の問題にも対応できると思う」と、今後ほかの問題にも同様の対応が広がることを望んだ。
「自認する性別に即して社会生活を送ることが法的な利益である」とし、「トイレや風呂だけに矮小化する話ではない」との考えも述べた。
11万円という損害賠償額については、「上司からは『男に戻ったほうがいいよ』などの心ない言葉を数々投げかけられ、長期間休職した」と明かし、
「その間の損害が考慮されず、極めて少額の賠償判決が維持されたことや憲法判断に至らなかったことは不本意」と話した。
判決を受けて人事院は、「国の主張が一部認められなかったと受け止めている」とコメントし、「今後については判決の内容を十分精査し、適切に対応したい」としている。
そして経済産業省は、「今後の対応について最高裁の判決を精査したうえで、関係省庁と協議し対応していく」とコメント。
「今後も職員の多様性を尊重した対応に努めていく」とした。
また、松野官房長官は「国の主張が認められなかったものと受け止め、関係省庁で判決の内容を十分に精査したうえで、適切に対応していきたい」と、判決が言い渡された7月11日午後に行われた記者会見で延べた。
さらに「多様性が尊重され、性的マイノリティーの方もマジョリティーの方も含めた全ての人々が、お互いの人権や尊厳を大切に、生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向け、しっかりと取り組んでいきたい」との考えを示した。
先月施行されたLGBTの人などへの誓い増進法を踏まえた対応をしていく方針だ。
