WBC日本代表の優勝賞金4億円は安すぎ? MLBが握る利益
日本代表「侍ジャパン」の3大会ぶりの優勝で幕を閉じた第5回WBCワールドベースボールクラシック。
エンゼルスの大谷翔平とトラウトのメジャーリーグでも最高峰のチームメイトが決勝で、日本代表とアメリカ代表として最後に対戦するという劇的な幕切れもあり、興業的には大成功だったと言っていい。
しかし、優勝賞金の総額300万ドル(約4億円)が妥当かどうかも含めて大会の改善点はまだまだ多く残されている。

サッカー日本代表はW杯で22億円
侍ジャパンが2009年以来、14年ぶりにつかんだ優勝は賞金300万ドル(約4億円)はもちろん、名誉というお金以上に価値があるものであることは間違いない。
ただ、「ワールド」と世界規模をうたう大会としてはかなり賞金が少ないのも事実。
例えばサッカーのワールドカップ(W杯)は優勝賞金は4200万ドル(約55億円)。
2022年のカタールW杯でベスト16に進出した日本代表の賞金は1600万ドル(約22億円)だった。
優勝した野球の日本代表の5倍以上だ。
サッカーのW杯はFIFA国際サッカー連盟の主催で1904年に第1回大会が開催された。
WBCは、メジャーリーグベースボール(MLB)機構とMLB選手会が立ち上げたワールドベースボールクラシックインク(WBCI)が主催し、2006年から大会が始まった。
歴史的にも100年以上続いているサッカーに対して、WBCは20年にも満たない。
サッカーは予選に200以上の国と地域が参加するが、WBCは2023年の第5回大会に参加したのは28チーム。
サッカーは48チームが本大会に出場し、WBCは20チームが出場する。
WBCはまだまだ発展途上の大会と言える。
サッカーのW杯は各国のサッカー協会が加盟する国際サッカー連盟の主催だが、WBCは実質的にMLBの主催。
そのため、利益の多くはMLBが握り、利益の33%はMLBに、33%はMLB選手会に配分され、日本野球機構(NPB)に分けられるのは13%と報じられている。
第2回大会のスポンサー収は約1800万ドル(当時のレートで約16億円)とされ、テレビの放映権料も含めれば相当な収入になるとみられる。
その約7割をMLBが握っているのが現状だ。
こうした利益の配分をめぐっては、第1回大会が開催される前に日本にとっては不利な条件だったため、NPBは一時参加を保留した経緯もある。
今大会は野球後進国のチェコが日本を相手に善戦し、その姿勢も好感が持てるものだったが、本大会の1次ラウンドに出場したチームにはわずか30万ドル(約4000万円)しか賞金が配分されない。
もちろん、世界の野球の中心はMLBで、大会を盛り上げるためにはメジャーリーガーの参加は不可欠だが、野球の世界への普及を考えれば参加国への賞金はもっと配分されるべきだろう。

開催時期は3月からずらせないのか
もう一つ課題となるのが開催時期だ。
これまでのWBCはMLBやNPBのシーズン開幕前の3月に開催されている。
選手は例年よりも早めの調整が必要となり、怪我のリスクは高まるため、MLBのチームは選手を派遣したがらないところも多い。
今大会もドジャースの左腕クレイトン・カーショーが保険会社の審査が通らず、アメリカ代表を辞退した。
前腕や腰痛など、過去の負傷歴があるため、WBCで怪我をした場合に年俸を保険会社が負担する契約を結べなかったという。
カーショーと日本の三冠王の村上宗隆(ヤクルト)や大谷との対決を見たかったファンも多かったが、実現しなかった。
真の世界一を決める大会を目指すのであれば、開催時期は見直す必要があるだろう。
サッカーの場合は、カタール大会は暑さを考慮して初めて11月、12月の北半球での冬開催となったが、例年はシーズン終了後の6月から7月にかけて行われてる。
WBCも一度シーズン後に開催すれば、出場できる選手も増えるのではないだろうか。
イチロー氏「世界大会のトップとして目指したい場所に」
ただ、こうした改革もMLBが中心となって運営しているうえでは難しい面もある。
決勝もアメリカ開催というように、MLBの利益を最大化するように大会は組まれている。
MLBを動かし、最強チームを結成させてハイレベルな大会にしていくためには、日本が優勝を続け、アメリカをさらに本気にさせるのが一つの手段かもしれない。
2006年、09年に日本代表で連覇したイチロー氏は「当時はWBCなんて誰も分かってくれなくて、気の悪い思いもした。
時間が経って前に進んでいる感触があるのは野球界にとっては良いもの。
世界大会のトップとして野球選手が目指したい場所になってほしいという思いには変わりないですが、それは選手の熱意次第です」と語る。
次回は2026年。
再びアメリカを本気にさせる侍ジャパンの活躍に期待したい。
