社会・文化

夫を毒殺した容疑で逮捕された妻。夫の死後、悲しみを題材に絵本を出版していた

夫の死後、3人の子ども達と絵本を執筆

アメリカのユタ州にある町カマスで、夫を亡くした1年後に愛する家族を失った悲しみとの向き合い方をテーマに絵本を出版した妻。

しかし、悲しみに暮れていたはずのその妻が、夫の殺害容疑で逮捕されるという事件が起こった。

妻の名前はコウリ・リチンズ。

2022年3月4日、自宅の寝室のベッドの足元で、夫のエリックさんが死亡しているのをリチンズ容疑者が発見した。

当時、警察の調べに対してリチンズ容疑者は、「自分の仕事用に、家を買う契約を済ませたばかりだった」と話した。

さらに「午後9時頃、寝室にいた夫のためにお祝いのカクテルを持って行った」と説明。

夫婦の寝室を出て、1人で寝るのを怖がっていた息子の部屋に行き息子と一緒に寝たが、午前3時頃に目が覚めたリチンズ容疑者が寝室に戻るとエリックさんが寝室の床に倒れて冷たくなっているのを発見したため通報したと供述。

リチンズ容疑者とエリックさんが結婚したのは9年前で、結婚後は3人の子宝に恵まれていた。

エリックさんの死後、リチンズ容疑者は3人の子ども達にも手伝ってもらいながら、絵本を執筆。

完成し、出版された絵本のタイトルは、『Are You With Me?(ここにいるの?)』。

子ども向けの絵本で、テーマは愛する家族を失った悲しみとの向き合い方。

父親を亡くした主人公の子どもが、守護天使みたいにそばにいる父親の存在に気付くというストーリーだ。

執筆を手伝った子ども達には、「自分達の悲しみを表現する手助けをしてくれた」と語っているリチンズ容疑者。

絵本には“同じ苦悩に直面した愛情深い母親が、幼い心を癒し、慰めるために描いた、心温まり、元気づけられる作品”とのコピー文が添えられている。

絵本の出版後、リチンズ容疑者は地元であるユタ州のテレビ局に出演し、死を悼むことについて描いた子ども向けの本がいかに重要かということを語っていたという。

亡くなったエリックさんとリチンズ容疑者
亡くなったエリックさんとリチンズ容疑者。

薬物を不正入手

リチンズ容疑者が絵本を執筆している間、警察は捜査を地道に続けていた。

事件発生当時、リチンズ容疑者は自分のスマートフォンを息子の寝室には持っていかなかったと証言。

夫婦の寝室で充電したままにしていたというのだ。

しかし、警察がリチンズ容疑者のスマホを調べたところ、リチンズ容疑者が息子の部屋に行ったと証言した時間から通報された時間までに、ロックをかけたり解除したりなどの操作が何度もされていた記録が残っていた。

さらに、部屋を移動した記録やメッセージのやり取りの痕跡も残されていた。

ただし、メッセージは消去済みだった。

そして、エリックさんが死亡する前の数カ月間に数回、リチンズ容疑者は知人から麻薬性鎮痛剤“フェンタニル”を購入していたことがわかった。

フェンタニルとは医療性麻薬の1つで、オピオイド系鎮痛剤。

癌による強い痛みや慢性疼痛を抑える効果がある。

フェンタニルは、癌による痛みに用いる薬の中で最も強い部類の薬で、中等度から高度の癌の激しい痛み止めとして使用されている。

また、ほかの薬物と一緒に麻酔に使用されるほか、集中治療室で鎮痛薬や鎮静剤として使用される薬でもある。

本来であれば処方箋が必要だが、リチンズ容疑者は知人から不正に入手していたのだ。

エリックさんの死後、解剖や毒物検査の結果、エリックさんの体内から致死量の約5倍にもなる大量のフェンタニルが検出され、死因はフェンタニルの過剰摂取によるものだとわかった。

リチンズ容疑者のスマホやパソコンを押収して調べると、フェンタニルの売人だった知人と連絡を取り合っていた記録が残っているのが発見された。

リチンズ容疑者の知人は警察の調べに対し、2021年12月~2022年2月にかけ、複数回にわたってリチンズ容疑者に最大で30錠のフェンタニルを売っていたことを供述。

最後にリチンズ容疑者が知人から薬物を追加購入したのは、エリックさんが亡くなる6日前のことだったことも判明した。

知らぬうちに麻薬性鎮痛剤を過剰摂取し死に至った。
知らぬうちに麻薬性鎮痛剤を過剰摂取し死に至った。

絵本出版後に逮捕された妻

警察の捜査ではさらに、エリックさんが亡くなる数週間前のバレンタインデーの1件も浮かび上がった。

自宅でリチンズ容疑者が用意したディナーを食べたエリックさんは、食べた直後に気分が悪くなったというのだ。

このときエリックさんは友人に、「妻が自分を毒殺しようとしている」と打ち明けていたこともわかった。

一連の調べにより、警察はリチンズ容疑者がエリックさんに致死量のフェンタニルを飲ませて殺害したと断定、事件から1年以上たった2023年5月8日に、殺人や禁止薬物所持などの容疑によって逮捕されたリチンズ容疑者。

3人の男の子に恵まれ、家を買う契約を済ませたばかりの夫婦に一体何があったのか。

動機や真相の解明はこれからだが、一見幸せそうに見える夫婦や家族にも、他人にはわからない事情や苦しみがある。

しかし、夫を殺害した後で、子ども達と夫を亡くした悲しみをテーマに絵本を執筆するというリチンズ容疑者の行動の裏には、どんな気持ちがあったのか。

疑問は深まるばかりだ。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-3.png

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。