山際大臣「所得倍増は所得が2倍になるという意味ではない」
所得倍増と同じく、岸田首相が掲げた分配重視の「新しい資本主義」を担当する山際経済再生大臣は、テレビ朝日などのインタビューで、岸田総理大臣が総選挙で掲げた「令和版所得倍増」は所得が2倍になる意味ではないということを示した。
山際経済再生大臣は、所得倍増」というのは文字通り、所得が倍増するということではなく、多くの方の所得が上がる環境を作り、そのような社会を実現していきたいということを表す言葉だと総理はおっしゃっていると述べました。
また、続けて「令和版所得倍増」の詳細については近く設置される「新しい資本主義実現会議」で議論するとしている。
令和版所得倍増計画
岸田文雄総理大臣が9月の自民党総裁選で格差是正を目指すために、掲げた経済政策の一つ。
1960年代、故池田勇人前首相が打ち出した昭和版「所得倍増計画」は戦後の日本の高度経済成長を導いたものとして、同じ経済政策とするスローガンを掲げた。
もとより、岸田首相は総裁選を通じ、「小泉内閣以降の新自由主義的政策が、持てる者と持たざる者の格差の社会を生み、ますますその格差が拡大していった。
そこで、今回掲げた所得倍増計画で格差是正を行い、富の分配によって中間層の底上げをしたいと訴えてきた。
分配と成長
現代の日本社会では格差が拡大しており、特に米国のような超富裕層の突き上げではなく、低所得層の貧困化がさらに激しくなっていているので、これらの是正は容易ではないとされる。
超富裕層がさらなる富をなす、上方向の格差の場合は課税の強化で再分配の原資を捻出できるが、低所得層のさらなる貧困化の場合では日本にいる超富裕層はごくわずかとなり、仮にこの層に課税をしたとしても得られる税収はたかが知れる程度である。
そのため、富の再分配を行う原資となる税収は中間層から求めることになるが同時にこれは猛反発されるため、日本での格差是正が難しいとされる。
岸田首相は分配なくしては次の成長はないとしており、教育費や住居費などの支援を行い、国民の所得を増やすことで消費拡大の原動力としていきたいと述べる。
しかし、これらの支援を行うためには当然、原資が必要となり、それらの仕組みと原資について問われた岸田首相は「成長の果実が一部の人にとどまっている」や「格差を是正することが消費拡大につながる」として、的を得ている回答にはなっていなかった。
今の日本は成長自体が止まっており、低所得層がますます貧困化していくことは述べた通りで、消費拡大のための支援を行っていくにもその原資が必要になるのも分かっているはずであるが、今の状態でその原資を作るための増税をするなどということは言い出せなかった。
所得を倍増させる施策について
以前、昭和の時代に池田氏っは提唱した「昭和版」倍増計画には、所得を倍増させる具体的な計画などはなく、今回、岸田首相が池田氏のモデルを参考にしたのであれば、今回も具体的な施策はないのではないかという見方がある。
1960年代に池田内閣が掲げた所得倍増計画は長期経済計画であり、当時、1961年から10年間の間で実質GDP(国内総生産)を2倍にするという目標が掲げられたが、この目標は7年間で達成することができ、当時の国民は豊かさを実感することができた。
10年間でGDPを2倍にするためには、7%程度の成長が必要とされる中、1959年には実質成長率は11.2%、60年には12.0%を達成している。
しかし、その際には特段具体的な所得を倍増する計画というものはなく、当時の日本は自律的な高成長がつづいていたことから自然に所得を倍増できたという見方もできる。
所得倍増計画の裏にあった真の目的
当時策定された所得倍増計画には政府の過度な介入を避けること、民間の自発的な経済活動を促進させるといった内容が列挙されており、特に際立った施策が明記されているわけではないとされている。
さらに当時、閣議決定された所得倍増計画には、それ以外に「所得倍増計画の構想」というものがあり、その中身は農業近代化、中小企業近代化、後進地域の開発促進、
公共事業の地域別分配の再検討などが含まれていたとされる。
これらが意味しているのは予算の重点配分リストであり、高度成長によって生まれた豊富な財源を多くの利害関係者にばらまくことで自民党の政権基盤を強化する狙いがあった。
すなわち、所得倍増計画というのは、日本経済が自律的に高成長し、その果実である財源を自分たちの政権の基盤強化に利用するという大胆かつ野心的な取り組みだったといえよう。
現在、岸田氏が率いる派閥の創始者が池田氏であり、その池田氏によって盤石な政治基盤が作られたことからも、岸田首相が池田氏に強い思い入れを抱くのは良く理解できるだろう。
しかし、当時と今の日本経済は大きく変わり当時のように経済が成長し税収が面白いように増えるということは難しく、お金のをばら撒く原資が足りていない状況だ。
記載してきた通り、所得倍増計画は高度成長ありきのプランだったため、それ単体での経済成長は難しく、岸田首相が掲げる所得倍増計画を実現するには、大規模な国債増発や増税が必要で、実現のハードルは高いといえる。